16 メガネ登場
泣いたってしょうがないんだ。
いつか…いつか貴方に逢えるのよね?
優しく微笑んで、私をぎゅっと抱きしめてくれるんでしょ?
貴方に逢えるその日まで、私、待ってる。待っているから―――
今日はとても天気が良い日だった。
いつもなら授業が終わったら速攻で図書室へと向かっていた私と教授だけれど、たまにはいいかなって思って、教授を誘ってみた。
こんな天気の良い日は部屋に籠ってちゃダメよね。
湖のほとりの静かな場所。ここは、私達が初めて逢った場所だ。
正確に言うなら、私が初めて教授と逢ったのは、彼の部屋ということになるけれども(作者注:第一章を参照)、教授が初めて私と逢ったのは、ここだった…はず。
私ってば、空から墜ちてきたんだって。まるでラピュタみたいよね。
そんなことを教授に話しても通じないので、私は彼を木陰に座らせ、厨房からくすねてきたお菓子を出した。
「これは?」
不思議そうな教授に私は笑いかける。
「本当は手作りしたかったんだけど時間もなくて…しもべ妖精からくすねてきちゃった。セブ……スコーンは大丈夫?食べられる?」
「ああ、問題ない…。だがシズノ、あと数時間で夕食だろう。今食べては食事が入らない――」
「甘い物は別腹って言うじゃない!だから……ね?いいでしょ…?」
私が教授を覗きこむと、彼はプイとそっぽを向いてしまう。そんな貴方が可愛いのです。大好きなのです教授さん。
私はクスクス笑いながら言った。
「ねぇ…セブ、こっち向いて?」
「……嫌だ」
「どーして」
「どうしてもだ」
あら、拗ねちゃった?私が笑ったから…。私は教授の顔を覗き込もうとした。すると教授はますますそっぽを向いてしまう。可愛いんだからッ
仕方ないわね……かくなるうえは……。
私は悲しそうな声を出した。教授……引っかかるかな?
「セブ……私のこと嫌いになっちゃったの……?」
「!い、いや……そんなことは…」
「じゃあ…どうしてこっちを向いてくれないの?」
「ど、どうしてと言われても…」
「ううっ……セブのいじわる……」
「どうしてこんなことで泣くんだ―――むぐっ」
やった!引っかかかったよ!教授が私の方を向いた。その瞬間を逃す私じゃない。私は素早く、彼の口にスコーンを突っ込んだ。
「引っかかった♪ねぇ…美味しいでしょ?このスコーン…」
「……………」
「でもやっぱりセブ1人が食べるには大きすぎるよね。私も食べちゃおっと!いただきま――――」
「おい!それは駄目だシズノ―――」
教授が口をもごもごさせながら言ってきたけど、聞こえないもんねー!だって本当はわざとなんだから。
わざと、大きくて食べずらいスコーンを選んだんだから。
私はあーんとスコーンを食べた。勿論、教授が食べた場所を狙って。モグモグとしっかりと味わう。教授の顔は信じられないって顔をしてた。そしてみるみるうちに赤くなる。か、可愛い教授……抱きしめたいッ
「んふ〜………甘くて美味しい♪」
「…あ、甘くなんてなかったぞ僕は……」
「じゃあこれセブの味だ〜♪」
「なっ…!!」
真っ赤な顔で固まる教授が可愛くて、私はニコニコしてしまう。
たとえ未来の貴方に逢えなくても、今、私の隣には貴方が居るのよね。どんな形であっても。
たとえ恋人でなくても、友達としてでもいい。側に、いたいの……。
クスクスと笑っていたら、ふいに後ろから話しかけられた。
「なんて素晴らしい演出なんだ!相手がスニベルスというのが気にくわないけど、僕もリリーとやってみよう!!」
その変態的な台詞と声には聞き覚えがあった。あなたはもしかして―――、
私と教授は同時に振り返った。するとそこには、クシャクシャ頭の、メガネをかけた男の子がいたのでした。
「あ、メガネだ!」
「僕はメガネじゃない!」
「シズノ、こいつはポッターだ。メガネじゃない」
「良いじゃない。貴方の事ちゃんと名前で呼ばないんだから。もうメガネでいいわよ」
「勇ましい御嬢さんだね……スニベルスには勿体ないな」
「「だまれメガネ」」
私と教授の声が見事にハモった。
わ〜ついに…ついに!変態メガネが登場だよぉ…!
(H23,12,05)