14 躾は大切
「ねーセブ、ここって…よくわからないんだけれど」
「そこか……そこはだな……この本のここを読んでみろ」
「えっとぉ……」
図書室で、私達はお勉強中。
教授は、最初に約束した通り、私の勉強を見てくれている。嫌がらずに。
教授ってホントに優しい人だなぁ。それに、教え方がとっても上手だ。
真面目な顔が、とっても素敵だし。
間近に居てくれること自体嬉しいのに、勉強まで教えてくれるんだから。
はぁ……夢のよう……。
こんな幸せ、ずうっと続いてほしいって思っていたのに、お邪魔虫が黙っちゃいないのよね。
んもう、やっぱりそうなるのね……。
「スニベルス、お前が家庭教師?ハッ、笑わせるぜ」
私達が真剣に勉強していたら、後ろからこんな声をかけてくる奴がいた。
むか。誰だコイツ。大体想像つくけど。
教授は溜息を付くと、心底嫌そうに振り返る。つられて私も。するとそこにいたのは―――、
「……ブラック…放っておいてもらおう。今、貴様の相手をしている時間はない」
黒髪のイケメン野郎、シリウス・ブラックその人でした。
「イチャイチャしやがって……スニベルスのくせに!」
い、いちゃいちゃ〜?!
な、なに言ってるんだこのへたれ犬。私達がいつ!どこで!いちゃいちゃいしてるっていうの!!
びっくり仰天。そんな言いがかりを付けられるなんて。シリウスってよっぽど教授のこと嫌っているのね。
にらみ合いを始めた二人。その後ろから、顔に傷のある男の子とそばかすのある男の子が慌ててやって来るのがわかった。
「シリウス!図書室で騒いだらダメ―――」
いや、その声も大きいんですけれども。
ルーピンが慌ててとりなそうとしているのはわかる。うん、じゅーぶん解る。
でもそんなに大声で騒いだら絶対にマダムに怒られるでしょ。
「貴方達、出て行きなさい!!」
………がーん。
図書室を追い出されてしまったので、仕方なく寮へと戻る私達に、しつこいくらいにシリウスが絡んでくる。
うるさい、この犬。
「スニベルスに女が出来た〜♪女が出来た〜♪」
歌いながら私達の間をクルクル踊る。よっぽど教授を怒らせたいのね。
教授は溜息を付くと、私にぼそりと言ってきた。
「……シズノ、構うな。つけ上がるだけだ」
「でも…セブ、結構失礼だよ?」
私、小さな声でそう言ったのに、聞き逃さないんだ。やっぱり犬だから?
「セブ!スニベルスをそう呼ぶなんて……物好きもいたもんだ!」
「シリウス止めなよ―――」
リーマスがなだめようとしてくれてるみたいだけどもう限界。
私のダーリンをいじめないで!!
私はピタリと歩くのを止めた。数歩遅れて教授が止まる。それからシリウスやリーマスも。
「シズノ、どうした?」
教授が聞いてくれるけど、もう許さないんだから!
私は俯くと言った。こっそりと杖を構える。
「シリウス……」
「……俺?」
「お手!!」
杖を振って呪文を唱える。
「わんっ!!」
シリウスはその場で座ると右手を差し出してくる。それを受けながらもう一度杖を振って呪文を唱えた。
「おかわりっ!!」
「わんっ!!」
シリウスは反対の手を差し出してきた。それをもう一度受け、とどめの一発!!
「シリウス……ゴーホーム!!」
「きゃいんきゃいん……」
杖で廊下の先を指し示すと、シリウスは犬走りで走り去った……。数秒遅れてぽかーんとした顔をしていたリーマスがハッと気づき、シリウスを追いかける。あと、ピーターも。
「ちょっ……シリウス、どこへ行くんだ!」
「わーん待ってよぉ……」
後に残ったのは私と教授だけ……。数秒の沈黙の後、教授が一言。
「実技は……問題ないようだな……」
「なにアレ!大っ嫌い!!」
プンスカ怒る私を見て、教授は呆れ顔だった。
それにしても……覚悟していたとはいえ、あのいたずら4人組のカラミは結構なものなんだろう。これから気を付けなくっちゃ。
(シズノ、お前がそれほど怒ることじゃないだろう?)
(何言ってるのセブの馬鹿!友達が侮辱されて、怒らない人なんていないってば!)
(!)
(セブ……顔、赤いよ?)
(うるさい前を向いて歩け馬鹿)
(馬鹿って言う人が馬鹿なんですぅ〜)
(……お前も言っていたぞ)
(…………あ)
(H23,08,30)