12 無意識の言動
「ほら、これで綺麗になったから、安心しろ…」
「ん、ありがと!セブ……」
教授はその言葉の通り、寮の談話室に着いた後、ちゃんと私の手を消毒してくれた。
みたこともない薬草を私の手の甲にすり込んでくれた。
ちっとも嫌な臭いじゃない。ハーブみたいに良い匂いがする…。
「ハーブみたい…」
「ハーブだ」
当たり前だ、というような顔で、声で、教授は言ってきた。カチャカチャと瓶やらなんやらをケースにしまいながら。
教授ってば自分の部屋にこういった薬草類を置いてあるんだ。
さすが、次期、薬学教授!!
「ハーブなんだ〜」
「そうだ。これは1年生でも知っている有名なハーブだぞ?シズノ、お前が知らないなんて――って当たり前か…」
「うん、私、マグルだもん」
苦笑して答えた私に、教授は腕を組んで何かを考えているみたい。なんだか真面目な顔つきだった。
恰好良いから良いけど!
「セブ、どうしちゃったの?また眉間に凄いシワ……」
「触るんじゃない」
「あまりにもゲージツ的で…」
「嘘を付くな」
「えへへ……」
「はぁ〜………」
教授は愛想笑いをする私を呆れた目で見ていたけど、ふいに、真面目な表情になると言ってきた。
「それでシズノ……授業はどうするつもりだ?」
どうするつもりって、どういうこと?意味がわかんない。
???
「当然でしょ?授業には出るよ?なにせ“学生”になったんだもん!」
「いや、それは当然だが……解るのか?授業に、付いてこれるのか?」
「それは――――」
教授に冷静に突っ込まれて、私はハタと考えた。
確かに、教授の言うとおりかも。
だって、基礎も知らないでいきなり応用学習をするようなモンだろう。
セブと同じ学年だということは私って3年生らしいし。確かに授業に付いて行かれないかもしれない……。
「無理……かも…?」
私の言葉に溜息を付く教授。彼はまたもや腕を組んで考えだした。
「しかし……こうしたらどうだろう?これなら……」
「セブ……?」
「2か月くらいあればなんとかなるのでは……あとはそうだな……」
「おーいセブセブ〜……」
「僕はセブセブじゃない」
「聞こえてるんじゃん。ねぇ、何を考えてるの?」
気になるし。
私の言葉に、教授は溜息を一つ。そうして私に言ってきた。
「付き合ってやる」
!!!
な、な、なんて大胆な言葉。その言葉を教授の口から今聞けるなんて!!
「つ、付き合うって……まずは、お友達から…よね?」
そこは一応確認しておきたい。
いきなりハードな関係はちょっと……、って思っていたら。
「はぁ?お前は何を言っているんだ?」
へ?付き合うって、そういう付き合うじゃないの……?
「付き合うって……恋人になって、ってこと……でしょ……?」
は、恥ずかしいけど一応、そういうコトはしっかりと確認しとかないとね!
私の言葉に、教授の顔色がみるみる良くなる。青白い顔色が一瞬で真っ赤に!
「わー凄い。リンゴみた〜い!」
「お、お、お、お前は馬鹿か!!ぼ、僕はそういう意味で言ったんじゃない!!お前の勉強に付き合ってやっても良いと言っただけだ!!」
………そーだよねぇ。都合良すぎるなって思ってました私も。
「なーんだガッカリ〜」
「……え?」
「確かに勉強を教えてくれるのは助かるかも。1年生から勉強し直しってことでしょ?私ってば」
「シズノ……お前、今何て―――」
「セブが先生だなんて贅沢だね!そうと決まれば明日から一緒に勉強しようね!」
「おい――」
その時、女子寮から私を呼ぶ声が聞こえた。
「Ms,ニイザキ……お部屋を案内するわ。付いてきてくださる?」
「はーいわかりましたー!じゃ、セブまた明日ね!」
「………あぁ」
セブにそう言って女子寮に避難しつつ、私は自分の顔が赤くなるのを感じた。恥ずかしい。
だってなにどさくさに紛れて告白してんだ私!
恥ずかしいから地味に!私の馬鹿!!
『私馬鹿だマジで……ううう……セブあの言葉聞いちゃったよね…聞いちゃったよね…?わーん恥ずかしすぎて死ねる今なら〜!』
「日本語はわからないわよ……」
アリシアが話しかけてきたけれどそれどころじゃないって!
穴があったら入りたい私でした……。
(H23,08,14)