あなたに逢いたくて | ナノ


 19 運命の人



「元気ないんだ、シズノ…」

「ん…ごめん…リカ…」

「気にしないで!そういうこと、誰にもあるし。じゃあ、コンパの話は―――」

「行かない。悪いけど、そんな気になれなくて…」

「ん、わかった。じゃ、ね!」



リカはそう言って苦笑すると、去っていった。
講義の終わった講堂は、生徒もまばらだ。
もうすぐお昼だから、限定の定食をゲットしに、生徒は急ぐ時間帯だもんね。


私は一人、ため息をついた。





あれから、気がつくと2ヶ月経っていた。

結局、私がトリップしていた時間は現代では一瞬だったみたいで。
救急車で運ばれて、病院に入院となってしまったけど、翌日には私は退院できた。



何度も、何度も思った。



もう一度、あなたに逢いたい―――。



けれど、どんなに祈っても、望んでも、私が再びトリップすることはなかった。
その間、学期が終了し、冬休みになって……何もする気が起きないまま、また大学の授業が始まった。


当然、勉強なんて手につくはずがない。

思い出すのは、教授、あなたのこと。



あなたのあの低い声。
皮肉げに笑う、あの独特の笑い方。
鋭い視線。けれど、時々すごく優しい目になる。
大きな手。
薬草の香り。
そしてあのローブ。
抱きしめられたときのあの感触。



夜眠れない。食欲だってない。
やっと眠ったと思ったら、夢に見るのはあなた。
優しく微笑んで、私を抱きしめてくれるの。



「シズノ……突然いなくなるから我輩は驚いたぞ」

「ごめんなさい〜」

「フ……これからはシズノが二度と迷子にならないように、我輩がこうやって、抱きしめていてやろう…」

「セブルス…」

「シズノ…」


教授の力強い腕に抱かれて、甘く囁かれて、最高に嬉しくて幸せで涙が出てくる。
教授が顔を近づけてくる。あ、キスされるんだ…と思ったら。



目が覚めてしまう……。





何度泣いたか、数え切れない。
どんなに想っても、恋焦がれても、あなたには逢えない……。私は泣きながら、枕を抱きしめた。





運命の人に出逢ってしまったんだ、コンパなんてとんでもない。
こんな状態で、あんな騒ぎに出たくはない。今日は帰ろう………。

筆記用具をバックにつめて、講堂を後にする。
午後は選択科目がないから、もともと時間は空いていた。食事は家でとることにして、駅へと向かいながら、私は携帯を開く。
そこには私の大好きな教授が、腕を組んだ状態で写っていた。大好きすぎて待ち受けにしてあるのだ。


この人じゃ、ないもん。私の好きな人は……。
私はため息をまた付くと、携帯を閉まった。





結局、私は病院送りになってしまったので、映画を観ることができなかった。
どうやら、教授の格好良いシーンがあるらしいけど、私は観る気にはなれなかった。
だって、あの人じゃないもん、私の教授は……。



電車に揺られながら、外の景色をぼんやりと眺める。
街の景色を眺めながら、私は確信した。



私のいるべき世界は、もう、ここじゃない。
私が本当に、生きることができる場所は、あの人の側をおいて他にはないんだ。


「教授……」


ポツリと呟いた私の言葉は、電車の音にかき消され、誰にも聞かれることがなかった―――。



第一部 完

(H22,12,26)



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