16 溢れだす愛情
ああ…愛してしまった…。
シズノの全てを、ついに手に入れてしまった我輩。
欲望のままに、奪うように愛してしまった。我慢できなかった。耐えられなかったのだ。
これ以上、欲望が抑えられない。
少年の頃から、恋焦がれた相手。
10年以上の時を越え、再び、巡り逢えたのだ。
素晴らしい奇跡。我輩は神に感謝した。嬉しさに、心は天まで舞い上がった。
しかし、同時に強い不安が我輩を襲ったのだ。
また、我輩の元から消えてしまうかもしれない。
やっと巡り逢えたシズノを、再び失うかもしれないのだ。
ずっと一緒に居られる保障などどこにもない。どうやって、そして何故この世界にやって来たのか自体、解っておらぬのだから。
二度と、離したくない。
永遠に、一緒にいたい。どこまでも…いつまでも……。
募る気持ちが、行動に出てしまった。
失う不安に、愛しさに、順序を飛び越え、まるで思春期の少年のような行動を取ってしまった。
本当は、もっと心の結びつきを強めてから……優しく、そして深くどこまでも愛したかったのだが。我輩にはそんな心の余裕自体がなかった。
欲望のまま、貪るように愛してしまった。我輩は駄目な男だな。自分勝手であろう、これでは。
恋人失格、ですな。
我輩は、シズノをぎゅっと抱きしめる。
シズノの目尻に残るものは、涙の痕。快感の凄まじさに、泣き出してしまったのだ。
明らかにやりすぎだった。我輩は反省しておる。自分の行動に。
そして、信じられないことに……シズノは“初めて”だった。
我輩が、シズノの全てを知った最初の異性ということになる。まぁ、最初で最後の異性になるつもりだがな。
当然であろう?シズノは我輩のモノだ。
愛の行為の後、出血が止まらなかったシズノ。酷く動揺し、震えていた身体をそっと抱きしめ、我輩はバスルームへと向かった。
そこで可愛らしく恥らうシズノの身体を清め、シーツを取替えると、我輩はシズノを抱きしめた。
「どこか、つらいところはないかね?」
我輩の問いに、シズノは頬を染めて囁いた。
「ちょっと…痛いけど、でも大丈夫……」
「そうか…。では、眠りたまえ。我輩の腕の中で…」
すると、シズノは目を伏せ、小さな声で意外な言葉を言ってきた。
「あの…あのね?セブルス……」
「どうした?何か、気になる事があれば言いたまえ……」
「あの……私、初めてでごめんね…」
「ごめんとは…何故、そんな事を言うのだ?」
「だって……初めてって…“重い”でしょ?男の人にとって……」
シズノの声が悲しそうだった。
何を勘違いしているのだ?この恋人は。
周囲では、そのように言われているのであろうか?だったらそんな事を言う男は呪ってやりたいですな。
我輩はシズノの頬に手を添えて囁いた。
「どこでそんな情報を仕入れたのか知らぬが……我輩にとって、シズノが初めてであったということはですな、とても、“嬉しい事”ですな…」
「嬉しい事?」
「そうだ。我輩はな、シズノの全てを知り、味わった最初の異性であったということが、酷く嬉しいのだ。
我輩としては、シズノのそのカラダには、指一本も触れさせたくないのでな。素肌に触れるなど、言語道断だ。
よく憶えておきたまえ。我輩は独占欲が強く、嫉妬深いですぞ?」
そう囁き、その、果実のように熟れたシズノの唇にキスをすると、シズノはホッとしたような表情をしておった。
……頬を、真っ赤に染めて。
愛しいシズノ。
耐え切れず身体を重ねてしまったが、我輩の愛はこんなモノではない。
もっと、深く、果てしないのだ。お前への愛はな。
10年以上も放っておいた罰ですぞ。これからは、この我輩の愛情をたっぷりと感じてもらうことにしようではないか。
学生時代から、こうしたかったのだ。
こうやって、ぴったりと身体を寄せ合い、いつまでも愛し合いたかったのだから―――。
(H22,12,09)