14 我慢できない
大きな身体に、すっぽりと抱きしめられてしまう私。
有り得ない。
ほんとーに有り得ないって。
も、妄想が、現実になってんですけど!!
教授はその長い指先で、私の唇に触れる。
キスなんて、していない。
教授は、ただ、私の唇に触れただけ。
ただそれだけなのに、私の心臓は、壊れちゃうんじゃないかってくらい、ばくばくいってる。
触れられた所が熱い。
「シズノ……良いか?」
どーしてそんなにセクシーな声で囁くワケ〜?!
聞かなくっても解っているくせに。私には、拒否することなんてできない。
だって、大好きなんだもん。うっとりしちゃうんだもん。
教授、あなたにされることならば、どんなことだって嫌って言えないよ、私。
教授のその宵闇のような黒い瞳に見つめられて、私は身動きすらできない。
魅入られるって、きっとこういうコトを言うんだ。
「返事がないということは……肯定と受け取っても良いのかね?」
へ?いま何て言ったの教授さんは。
“返事がないということは肯定”?
教授は、一体私に何を言ってきたっけ……?うっとりしすぎて、頭が上手く働かない。
なんか確認されたような気がする、確か。
良いなとかっていわれたよーな……。けど、なにが?なにが良いの?
「良いなって…なにが?」
教授に尋ねながら、私は重要な事に気がついた。
私、文字通り本当に身動きができない。
教授は片手で、私の腰の辺りに手を廻してきていた。そうして、もう片方の手で、私の顎を掴んでいる。軽く、でも、有無を言わせないような感じで。
なんかこの体制やばいって!
こんなのないでしょ?昨日知り合ったばかりで、いきなりキ、キスされたし、そして次の日に恋人とか言われて、そしてこんな体勢って…やばいってマジで。
私はこっそりと逃げ出そうとした。教授の抱擁から逃れようと、身をよじる。
あれ……?動かないし。
教授はクックッと笑いながら私を覗き込んできた。大人の余裕って感じ。
「シズノ、逃げられると思うな。観念したまえ。良いな、とはな―――」
なんか怖いし。ドキドキと妖しく胸がときめく。
ああ、こんな欲望まるだしな状況、おいしすぎる…げふんげふん、いや、あの、危険すぎます。
「良いな、って……?」
「当然ながら、シズノ、お前を愛しても良いな?という意味だ」
は、はぁ?!
あああああ愛しても良いって、誰が、誰を?!
ちょっと、ちょっと待て。知り合って間もなすぎでしょいくらなんでも飛躍しすぎですって〜!!なんてことを確認してくるんですか教授!!
「全然良くないです!!だって知り合ってまだ1日とちょっとじゃない――」
「我輩は10年以上前から知り合いだ。それに我輩は十分待ったぞ。もう待てぬ」
「そ、そうかもしんないけど――」
「うるさい口だ。可愛らしい口は、こうしてしまおう」
教授はニヤリと笑うと、あわあわしている私の口を塞いできた―――その唇で。
「んんんっ……ぁ……んっ…」
逃げられない。教授が腰に廻した手の力を強めてきた。もう片方の手は、私の顎から離され、妖しげな動きをしだす。
背中を、肩を、そして腰のラインを、そうして太ももを撫でてくる。
手馴れたような、教授のその手つき。まるで、私の身体を確かめているみたい。
そうしながら、教授は何度もくちづけてくる。
私は息が苦しくなって、思わず首を振ってキスから逃れようとするんだけど、教授はどこまでも、どこまでも追いかけてくる。
「あ…ッ……ぅん〜」
身体に力が入らない。
すさまじく濃厚なキスや愛撫に、何も考えられない。思わず教授に縋りつくと、彼は私を抱き上げてきた。
って何処へ行くんですか!!
歪む視界の先にあるのは――――寝室。何故かひとりでに扉が開く。
そうして、教授はとっても嬉しそうに私に囁いてきた。
「今宵は離さぬ……覚悟したまえ、シズノ。我輩が、新しい世界へシズノをお連れしよう……」
ぷぎゃー!!
(H22,12,06)