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旅立ちの日に



卒業式って、直前まであんまり何も感じない。わからない。
でも歌を歌ってる時とか、歌ってもらってる時とか、あぁもうこのメンバーで歌うのは最後かと考えると涙が出てくる。
クラスメイトや、普段怒りっぽい担任や、友人や親や後輩が泣いているのを見て、意識した途端に何かが壊れる。

「笠松くん、泣かないで」
「っお前が泣くと泣けてくるじゃんか」
「・・・るせー」

普段人前でなく事がなかった分、驚かれたし心配された。人を励ます方だったから尚更。
そりゃ人間なんだから涙は出るよ。出にくいだけで。
たくさんの拍手の中、体育館を後にする。歩く途中に見えた黄色い頭が俯いていた。



「先輩!」
「…黄瀬か」

くると思ったよ、と続けようとして突然頭を下げられた。

「おい、」
「今まで本当にありがとうございました」
「今更すぎんだろ」
「オレは・・・オレが大人になったら、もう一度先輩に告白するッス」

前に、一度だけ好きと言われたことがあった。
もちろん断ったし、本気だとも思っていなかったが・・・。

「返事は同じだぞ」
「同じにはさせないッスから。絶対に」
「・・・生意気」

モデルの顔を小突く。きっともうできないだろう。
今日一日だけで最後が多すぎて、明日の俺がどうなっているのか想像できない。
からっぽの抜け殻なんじゃないんだろうか。

「まっててください」
「仕方ないからまっててやるよ」

黄瀬に俺の明日をかけてみようか。
何かを期待してみようか。
涙は引っ込んだ。もうぐずぐずしてられない。

「また、会おう」
「〜っはいッス!!!」


人生をマラソンと例えるなら、卒業は分かれ道である。
同じスタートを切った仲間は卒業を繰り返すごとにバラバラになっていく。
最終目的地は同じだが、距離も景色も違う人それぞれのマラソンコースに、俺には黄瀬が入ってきた。
鬱陶しいと思う反面、楽しみでもある。

「ありがとう」

そんなことを考えながら、俺は海常高校をあとにするのだ。



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