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結婚式ごっこ。U



どうしてこうなった。

黒いランドセルを背負いながら、俺は初めて一人で登校した。
昨日のうちに和奈には理由をつけて断っておいた。何も言わなかったから、良かったと思う。
途中さつきに会ったが「大ちゃん呼びに行かなきゃ」と走っていった。朝から大変そうなのだよ。
こうして俺たちがいつもより1時間も早く家を出たのには理由がある。
征十郎が、

「これから毎日6時半登校ね、家庭科室集合。学校には許可とったから裏門から入って、あ、もちろん誰にもバレないように。和奈に怪しまれたら涼太が何とかして」

と言ったからである。

「意味わかんないッス!意味わかんないッス!」

後ろから聞こえた涼太の叫び声は聞こえなかったことにしておこう。



「やぁ真太郎おはよう」
「おはようなのだよ」

現在時刻6時15分。家庭科室には既に征十郎がいた。何やら白い布を持って。

「それは何だ?」
「白いワンピースだ。あの後さつきと話してね。一から作るのは無理だから、これに少し手を加えたらどうかってくれたんだよ。少し大きいかもしれないが」
「そうか」

確かにスカートの下にパニエ?をはいたりすればそれっぽくはなるだろう。
ふと和奈がそれを着ているのを想像して、慌てて首を振った。・・・変態みたいなのだよ。

その後すぐにテツヤが、ぴったりに涼太と敦が来て、大輝とさつきは5分遅刻だった。
征十郎は何も言わなかったがいつもよりハサミを動かすスピードが速かったので恐らく怒っている。とても怒っている。


「・・・ところで皆はお裁縫したことがあるんですか」

全員が座ったところでテツヤが手を挙げた。

「まぁ、女の子だし一応は」
「僕にできないはずがないだろう」
「見ればできるっス!」
「糸通せないしー無理ー」
「俺に出来ると思ってんのか!」
「いえ、一ミリも思ってませんけど。真太郎くんは?」
「無理なのだよ」

このように俺を含めた半分はできない組。テツヤもやったことはあるが結果は・・・というらしいからできない組だろう。
言いだしっぺのさつきはできる組だが、それにノった奴らはどうするのか。

「とりあえず、大輝と敦は買い出しと荷物運び。さつきはテツヤとデザイン考えて、必要なら小物作り。僕と真太郎は本体の方やっていくよ。涼太は・・・まぁ適当に動いて」
「オレの扱い!!!!!」

思わず唇を噛む。残り1ヶ月と11日、時間は朝の一時間半と休日、わずかな春休みだけ。
本当にできるのだろうか。押し付けがましくないのだろうか。何より和奈は喜んでくれるのだろうか。
だんだんと不安になってくる、俺の悪い癖だ。

「暗い顔をするな真太郎、和奈はきっと喜んでくれるから大丈夫だ」
「・・・あぁ」

俺は後に針に糸を通すのが3Pよりも難しいことを知るのだった。


「で、で、できたよーーっ!!!」

空き教室にさつきの声が響き渡った。


ウェディング計画 〜桃井&黒子編〜
「真くん!どう?和奈ちゃんに、似合うと思う?」
「自信作です。時間と費用の関係でワンピース丈ですが、パニエと飾りで豪華に見えると思います」
「あんまりフリル入れずに大人っぽくしてみたの!」

あまりにも本格的なデザインに俺は絶句した。
元がワンピースだとわからないくらい華やかなデザイン。
上の方はほぼいじっていないが、胸元に大きなコサージュがついていて目を引く。スカートは限界まで膨らますらしく、テツヤの字で《パニエ》とだけ書いてあった。
前を開けた重ねたレース?に花がたくさんついていて、正直3日クオリティとは考えられないくらいの出来だった。
征十郎の知り合いに専門の先生がいるとかで電話で色々教えてもらったらしい。
それでも同い年とは思えない。やはり天性の才能なのだろうか。プロになればいいのだよ。

「いいんじゃないか?とっても似合うと思うよ」
「俺もいいと思うのだよ」

所々についている花はさつき達が作ってくれるらしい。
俺の仕事はやはりスカートメインだ。

「ナイロンシャー、70番チュール、小花のチュールレースと、あと淵レースつけるから・・・」
「征十郎?何を言っているのだよ」
「知り合いの所に頼む生地。大輝と敦にとってきてもらおうと思ってね。あ、あとツイル」

俺には何語なのかすらわからないが、まぁ征十郎に任せておけば大丈夫だろう。

「チュールレースとめているの花ですけど、リボンとどっちがよかったですか?最後まで迷ってて」
「花で、いいのだよ」
「ではさっそく取り掛かりますね。パニエは難しいので、征十郎くんにお願いしました」
「・・・あぁ頼む」

もうここまでくると驚きや申し訳なさより使命感が強くなってくる。みんな、本気だ。
さつきもテツヤも、たった3日でここまで仕上げた。俺もやらなくては。人事を尽くすのだよ。


「真太郎、明日大輝達が生地を取りに行ってくれるそうだ。僕たちの仕事は明後日から。それまでに手順を確認するよ」
言っておくけど休む暇はないからね。



・・・征十郎も本気なのだよ。



オレの名前は黄瀬涼太。色々あってウェディングドレスを作ることになったけど、オレに役目は与えられなかった。

「なんでッスかああ!酷いッスよおお!!」
「あれ?涼ちゃーん?」

うわーお。

ウェディング計画 〜黄瀬編〜

「ね、真ちゃん知らない?おは朝グッズ届けにきたんだけど、教室にいなくてさー」
「えーと、えー知らないッス、よー!後ででもいいんじゃないッスか?」

冷や汗だらだら。嘘をつくのは得意じゃないって自分でもわかってるから余計に。
幸い今の和奈っちは真太郎っちを探すのに夢中らしく気づいていない様子。よかった。征十郎っちに殺られるとこだった。

「まぁいいか。じゃね、涼ちゃん」
「ちょっと待って、和奈っち今靴何センチッスか?」

どことなーく変態チックだけど、靴もいるならサイズ聞いとかないと!オレ、さすが!

「20センチーでも上履きだから大きめだよね」
「ありがとーッス!」
「変な涼ちゃん。じゃあまたね!」
「次の放課にー!」

やっぱり和奈っちは笑顔が一番ッスよ。笑顔。
隣がオレじゃないのがちょっと残念ッスけど、本当の笑顔を出せるのは真太郎っちだけッスし。しょうがないーしょうがないー。

「でも何か、真太郎っちに負けたのって納得いかないッスわ!」
「涼太声でけーよ。うぜぇ」
「どったの?涼ちん」

げ、敦っちと大輝っち。珍しいコンビ・・・あぁ征十郎っちの命令だな。

「いや、和奈っちの隣欲しかったな〜って」

オレの好みからはすこーしずれるけど、可愛いし、気がきくし。

「和ちんは真ちんのだから〜美味しそうだけど」
「おっぱいがたりねーな」
「・・・2人に聞いたオレがバカだったッス」

大輝っちのはもう何か根本的に違う。
顔を見合わせて首をかしげてる2人を置いて教室に向かった。
こんなこと言ってもしょうがないーしょうがない!オレにもいつか夢中になれる人ができるはず!

「いつか!可愛くて正義感が強くてソクバクしない素敵な人が現れますよーに!」

そんなことを祈りながら黒板消しが降ってくる教室のドアを開けた。


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