あなたがいないこの場所なんて
優勝しましたって、真っ先に伝えたかったのに。
俺たち勝ったんですよって言いたかったのに。
俺が見たのは月山のキーパーとこっちに向かってきている南沢さんで。
くやしくて、泣きそうで、どろどろのユニフォームをぎゅってにぎって、雨の中を1人駆けだした。
「倉間!」
俺は
「勝手に逃げんなよ、俺の足を見くびんなって」
最低だ。
「…泣いてんのか?」
「泣いっ…てなん、か…っ」
俺が逃げれば
「ごめんな、ごめんな倉間」
彼がこうやって追いかけてくること、知ってるのに。
「南沢さんは雷門に戻ってきてくれないんですか」
「何を今更。どの面下げて帰るんだよ」
「みんなきっと歓迎してくれると思いますよ」
「ないな」
「なっ……
「もう雷門は、俺がいたころの雷門じゃないから」
去っていく南沢さんの後ろ姿は、桜吹雪で見えなかった。
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