Novel

 Usually

満月の夜だ。
なんとなく眠れず、辺りを見渡す。
俺の隣の布団が空だ、松風がいない。
練習…ではないな、ボールが隅に置いてある。
「暇だし…な」
少し夜風に当たろう。
そうしたら眠れるかもしれない。


俺は目を細めた。
あそこに座っているのは間違いなく松風だ。
だが雰囲気が、オーラが、いつもの松風と違うような気がする。
本物のペガサスのような、神秘的なオーラ。
だから俺は疑った。
あそこにいるのは、松風のように見える別の生き物なんじゃないかと。
近寄ろうと一歩進んだ途端、パキッと木の枝が折れた。
嫌な汗が流れる。

「剣城かぁ、びっくりした」

やっぱり松風だ。

「お前なにしてるんだ」
「ちょっと、ね」

こっちこいの仕草に促されて松風の隣に座る。
そこに行って初めて気づいた。

「…泣いてるのか」
「あはは、ばれちゃったかー」
上手く隠せたつもりだったんだけどなー。

松風の雰囲気が違ったのはコレが原因か。
そういえばこいつが泣いたところなんて、初めて見たかもしれない。

「…ねぇ剣城。剣城は、今、楽しい?」
「別に。前より充実してるとは思うが」

するりと影が動いた。
松風のだ。

「俺ね、今の生活が嫌いとは言わない。誰かのために何かできるっていう事は、これ以上ない幸せだと思うから。でもね」

俺は黙って聞く。
そっと手に冷たい感触、手を握られた。
こいつの手はこんなに冷たかったか。

「普通の、男の子が羨ましい」

手の上に水が落ちた。
また泣いている。
思わず握り返した。

「朝学校行って、友達とはしゃいで、勉強して、部活やって、へとへとになって、寝る。俺はそんな事できない。したことない。入学したらサッカーに縛られて、それが終わったら満足に学校も行けなくなった」

「まつか…」

「普通になりたい。もうこんなのやめたいよ。サッカーやりたいだけなのに、それを奪おうとするやつがいる。俺はその人たちを倒さなきゃいけない。どんな形であれ同じサッカープレイヤーなのに、傷つけあうことしかできない。俺は…なんのためにサッカーしてるのかわか…」

俺にはなにも言えない。
だから何も言わず抱きしめた。
何でこんなことしたのか自分でもわからないが、とにかく今の松風を止めたかった。

「剣城っ俺は…俺は…」
「お前がサッカーをやるだけのロボットだとは思ってない。でもそれに等しいぐらいサッカーバカだとは思っていた。バカなのは俺だ。お前だって、人間なのにな」
「ぅ…ふぇ…つ、るぎぃ…」


俺たちは普通じゃない。
だから普通なことは何もできない。
大人たちの言うことを聞かなければならない。
正直、うんざりだ。

「サッカー…嫌いにならないでね」
「当たり前だろ」

松風のペガサスのような雰囲気はいつのまにか消えていた。
もしかしたらあれは、松風のサッカーへの思いの具現化なのではないか。
だが本当はなんだったのか、俺も知らない、誰も知らない。
満月は夜は静かに過ぎていった。





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