Novel

 海色スケッチブック

僕は海が苦手だ。
べたべたするし、怖い生き物とかいるし、泳げないから楽しくないし。
小さいころずっと部屋の中にいたから、太陽に弱いのもあるかもしれない。
だからマサキくんが
「明日海行こう!」
って言ったとき正直お断りしようと思ってた。
「海はさ、何も泳ぐためだけにあるわけじゃないし。夕方の海とか綺麗だしー」
「…描きに行くの?」
「そ!あ、俺穴場知ってるから人目は気にすんな」
僕はほんとにほんとに泳げないけど海に行くことになった。


「お母さん、明日マサキくんと海行ってくる」
「まぁ…海は嫌いじゃなかったの」
「描きに行くから、海入らない」
「そう。気を付けていってくるのよ」

今月のスケッチブックは青。
考えてみたら、どことなく海っぽいかな。
中身は相変わらず部屋の外とか、愛犬愛猫ばっかりだけど、ぽつぽつ皆の練習背景や天馬くん信助くんが描いてあってなんか照れ臭くなった。
前は人を描くなんてなかったのにな。
部屋の隅のもう一つのスケッチブックを見て、あわてて目をそらした。



「やっほー!海だぜーっっ!!!」
「ほんとに人いないねぇ」
黄色いパーカ羽織って海を見る。
浜辺に座ってだと、ちょっと描きにくそう。

「マサキくんあのn…」
「海入ろう!せっかくだし、ほら」
「…やだよ…海嫌いだもん」

透き通ったエメラルドグリーンはすごく綺麗だ。
人もいない。生き物の気配もしない。

「泳げないから楽しくないもん…」
「じゃあ俺が教えるから!お願いだって入ろー!!」

何が嫌いなんだろう。
この海は文句つけられないくらい素晴らしい。
自分の意地?泳げるマサキくんが羨ましい?

「海を好きになんなきゃ良い絵は描けないだろ?いつも輝くんは意固地になりすぎ、もうちっと頼ってくれると嬉しい」
「…ごめんね」
「ほら、さっさと着替える!日焼け止めならもってきたし、浮き輪もある!溺れたら助けてやる!」
「うんわかったよコーチ!僕頑張る!」
ちょっとマサキくんの顔が赤かったのは気のせい?



夕暮れ。
海は真っ赤になった。
「夕焼けの赤って難しいよな。好きだから何回も描くけど、一回も納得したことない」
「だからマサキくんのスケッチブック真っ赤なんだ」
「そんなに赤いか?」
「うん」

黄色いパーカもオレンジになって、マサキくんの目の色と一緒だって、ちょっぴり嬉しくなった。

「今日はありがとね」

白で光を入れながらつぶやいた。

「輝くんにとって今日は『初めて海きたよ記念日』だよな」
「そうだね、マサキくんのネーミングセンス最高」
「笑うなよ!」
「笑ってないよぉ」



今の僕とっても幸せ。
今日という日に感謝、感謝。





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