Novel

 神童と亜麻色と感情と

アルファは天才だった。
勉強もサッカーも、はたまたそれ以外のスポーツも常にトップだった。
細かいところによく気が付く性格で、特に芯の強さはどんなプロ選手も驚かせた。


そう、彼は恵まれた星の下に生まれた神童だったのだ。


しかし、1つだけ彼には欠点があった。
アルファには感情がなかった。
確かに、どんな厳しい場所でも顔色一つ変えず進んでいく姿は目を見張るものだし、苦しい時でも冷静に対応できる姿はかっこいい。
ただ皆の当たり前が彼にはないのだ。
嬉しいときに手を叩き合って跳ねることも、悲しいときに涙を流して励ましあうことも、苦しいときに顔をしかめて助けを求めることも、彼にはできない。
否、知らないのだ。




幼児である時から、アルファは神童ともてはやされていた。
学習能力、理解力は大人顔負け、運動能力も人よりずば抜けて高かった。
しかし、実親は既に他界していた。
当時の彼はそのことを知らなかったはずだが、何にせよ頭が大変良いので薄々は気づいていたかもしれない。
養父母は精一杯の愛情で神童を可愛がった。


5つになるかならないかでアルファは養父母と引き離された。
お国の為に預かるという名目で、アルファは連れて行かれたのである。
感情がないアルファには泣き叫ぶこともできず、おぼろにうるみ曇った眼で、養父母が泣いている姿をただ呆然と見ていただけだった。


アルファは施設に預けられた。
そこにはアルファと同年の子がたくさんいたが、アルファに近づこうとする者は1人もいなかった。
そう、彼は特別だったのだ。
選りすぐりのエリートを集めたこの施設でも、アルファの存在は頭一つとびぬけている。
感情を出さない怪しい奴、大人からもてはやされる天才野郎、子供からみればそんな奴好かれる方がおかしい。
故に彼はどんどん孤立していった。


何年か経って、アルファは10になった。
成績優秀な彼は大人たちに混ざり戦争を止める事についてのシミュレーションをしたりしていた。
周りの子供は面白くない。自分の方が年上なのに、と思う輩も当然いる。
そんなときに1人、新人がやってきた。
ショートボブの亜麻色の髪。色素の薄い瞳。エイナムである。
彼は生まれこそ一般民であったが、人柄がよく、活発で頭もきれるとのことでやってきた。
人懐っこい性格で、明るく朗らかなので、たちまち人気者になった。
そんなエイナムは声をかけた。出来るだけ優しい声で、アルファに話しかけた。
しかし返ってくるのは「私に構うな」の一言。
周りの人は「あいつ変わり者だから気にすんな」などと慰めるが、エイナムは逆に興味をしめした。


やがてエイナムはいつもアルファの隣にいるようになった。
朝は部屋まで迎えに行き、ご飯を食べ、練習をし、アルファだけが大人に呼ばれたときは帰ってくるまでずっと待っていた。
3時間1人で外に待っていたこともあった。
あるときアルファはエイナムに問うた。何故自分にそこまでするのかと。
「貴方様を1人にすると、知らぬ間に消えてしまいそうで怖いのです」
亜麻色はそう答えただけだった。神童も、それ以上は何も聞かなかった。


それから幾年か経った。
アルファとエイナムはいつも隣にいることが当たり前になってきていた。
あのころとは周りの人々も大分変わってしまったけれど、2人は一緒のままである。
それはエイナムの希望であり、アルファの希望でもあった。
お互い気づかぬ間に、2人は『ともだち』になっていたのだ。
感情がないアルファは感情豊かなエイナムと共にいることで、少しずつ意思が表せられるようになっていった。
エイナムはそんなアルファが大好きだったし、アルファもエイナムのことをかけがえのない存在だと思っていた。


そんな小さな幸せが、崩れた。



「無限牢獄行きだアルファ。もはや貴様は用済み、使えない者は切り捨てる」

「エイナムさん、もしかしてアルファさんがいないから寂しいとかですかぁ?お2人共仲良しでしたもんねぇ〜」

「……すまない…エイナム」


「我ら、アルファに従うチームA5!」
未来人も現代人もマスターの命令も、もはや何も関係ない。
だって自分たちは人間なのだから。
感情があるのは素晴らしい。
それがたとえ怒りでも。憎悪であっても。





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