Novel

 雲色スケッチブック

6月になった。
じめじめで、ムシムシで、中途半端で、一番嫌いな季節がやってきてしまった。
今月の輝くんスケッチブックは銀色。
でも俺には灰色にしか見えなくて…ごめん輝くん。

「梅雨?別に嫌いじゃないよ、むしろ好きかも!でんでんむしとかカエルとか可愛いよね!」
「全然」
「えーっ!?うちの周りにいっぱいいるよー」
「何それキモい」

毎日雨雨雨!!!
目に入るのは傘ばっかりで、絵が描けそうなところが見つからない。
ていうか屋根がある前提なのが難しいわけで。

「あ!僕ん家来る?紫陽花が今すっごくキレイなの!」
「悪いけどカエルは無理」
「家の中まではいないよ…さすがに」


なんやかんやで電車に揺られ15分。
輝くんは毎日電車通学なんだなーとか思うと、歩き20分で文句言ってる自分が情けなくなる。
もっとちゃんと歩こう。
「次降りるね」
「りょーかーい」
今日は会議かなんかで早く終わって部活もナシ。
4時ぐらいだろうか、電車は込み始め。学生がちらほらといったところか。
いつもの時間はきっとサラリーマンとかの帰宅時間とかぶるに違いない。
輝くんが心配だ。後で言っておこ。


「うわ…キレイ…だけどカエル…」
「雨だしね、元気そう。ただいまー」
「おじゃまします…」

玄関に入った途端、茶色い物がたくさん足を囲んできた。
むず痒い感じ。もこもこと、さらさら…。
「こら、この人は僕のお友達だから噛んじゃダメだよ」

犬かよ。



「ごめんねマサキくん!動物全部ダメだったんだね、本当にごめん!」
「いや…いいよ…こっちこそ言ってなかったし…」

俺は生き物がダメだ。
昔動物がらみで何度もケガしてから苦手になった。
犬に噛まれ、猫にひっかかれ、ウサギにかじられ、鳥のフンが降ってきた。
極め付きは何と言ってもカエル。
5歳ぐらいのとき、雨降りで傘をさしていたら、いつのまにか乗っていたらしく、閉じた瞬間に背中に入った。
あぁもう思い出しただけで寒気が…。

「あのね、すっごく言いにくいんだけどね、うち、動物いっぱいいるんだ」
「まぁ…動物くらいさわれるようになんねーとかっこ悪いしなぁ…今日はリハビリって事で」
「うん!頑張って!一番おとなしい子連れてくる!ルイ、おいでー」

輝くん呼んだだけでくるのか。まぁ確かに好かれそうな感じはするけど。

「ひぃっ」
いきなり足の裏をなめられた。
もう既に失神しそうだけど頑張って耐える。

「そんなに緊張しなくても…噛みつかないよ?ちゃんとしつけしたもん」
「でもさぁ…やっぱ怖いもんは怖いって」
「首のとこなでなでするの。くーんってお腹見せてくれるから、そうすれば警戒心とかなくなるよ」

犬と戯れる輝くん。
おぉ…なかなか絵になる…。

「輝くん、ちょっとじっとしてて」
「へ?なんで?」

目を片方閉じて、集中する。これは輝くんに教わった技だ。
なんでも形を大まかに見て、心で感じるのが大事らしい。
俺にはさっぱりわからないが。

「マーサーキーくーん」

鉛筆をななめにもってシュッと一息に描く!
消しゴム使ってもたもたしてると見たままの物が描けなくなるんだと。これはまぁ、わからなくもないかな。

「よし!終わり!色付け〜」
「あーっ!?まさか、僕描いたの!?」
「そうだよ」
「ずるい!僕もマサキくん描く!ほら、ルイだっこして」

ひぃっ!犬は勘弁してってば!

「だいじょーぶだから、ほい」

ちょっまじ?え!?





「あったけ…湯たんぽみたい」
「でしょ?まだ7ヶ月なんだ、赤ちゃんだからあったかいの」
「ふーん」

そっーと首んとこなでてみる。あったかいし軽いしふわふわもこもこですんげぇ気持ちいい。
初めて会うのにもう俺の腕の中で熟睡。
俺が人さらいとかだったらどうすんだろ…あ、コイツ犬だった。

「今のマサキくんの顔すごくよかった」
「あっばかっ今の描いたのか!?消せって恥ずいだろっ!!」
「初めてみたーマサキくんもあんな顔するんだねぇ」
「…」

苦手だったはずなのにな。
なんでこうもあっけなく治ったんだろーか。輝くんに謎のパワーが…なわけねーけど。

「その子あげようか?」
「はっ!?」
「すっごく幸せそうだったから」

嫌ではない、不思議と。
少しだけもらってもいいかなと思ってしまった。でも俺は…
「俺ん家、施設だから、生き物はダメなんだ」
「そっか…うん、また遊びに来てよ」
「おう」



一人電車に揺れる。一本乗り遅れた電車はやけにすいていた。
スケッチブックに描いた輝くんと子犬…
ん?
まてよ?
俺、初めて輝くん描いたよな?ちっさいけど。
輝くんも俺を描いた…ちっさいけど。
お互い描いたってことだよな、てかこんな早く最初の夢が叶っちゃうとか…

「バカだ、俺」

子犬だけじゃなくて輝くんも可愛い、なんて思っちゃった俺にツッコミ。





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