Novel

 桜色スケッチブック

久しぶりに、何にもない日曜日。
いつもは部活だったり、練習につき合わされたり、補習だったりして忙しかったから、何にもない日がすごく新鮮だった。

「とは言ったものの…」
することがない。
忙しくて動き回ってるのに慣れっこしちゃって、じっとしてるのができなくなった。

「…どっかいこっかな。誰かいるだろうし」
サンダルをつっかけて俺は勢いよく飛び出した。



当てもなく適当にぶらぶら。
偶然ポッケに入ってた500円玉で駄菓子をいくつか買って、どうするかなっと考えたところに見慣れた後ろ姿。


「なーに書いてんのー?」
「ひやぁっ!へ!?狩屋くん!?」
「…そんなに驚く?」

相手が座ってるのをいいことにヒョイっと取り上げる。

「……すっげ…」

見たのは一面の桜桜桜…よくよくみたらこれはスケッチブック。
ははーん、河川敷の桜を描いてたのか。

「これ輝くんが描いたの?」
「…うん」
「へーやっぱりなぁ…なんとなくだけど輝くんっぽい」
「なにそれ」

へらっと気が抜けたような笑い方。
愛想笑いとか作り笑いとかじゃなくて、心の底からの笑い方。
大体、輝くんがこうやって笑うのは楽しい時か嬉しい時。

「この桜はね、僕が初めてこのスケッチブックに描いたモデルの桜なの」
だからこのスケッチブックは桜専用。桜色で綺麗でしょ?

確かにスケッチブックはピンクだ。
淡い桃色、今の輝くんのほっぺの色みたいな…って俺何考えてんだ!?

「こほんっ…輝くんは絵描くの好き?」
「うん、すっごい好き。でも人に見せたのは初めてだよ。狩屋くんが、初めて」
「……なんか、悪い事したな」
「いいよ別に…恥ずかしかっただけ。ごめんね」


それからいろんな話をしたら、あっという間に暗くなった。
何にもない日曜日がもうすぐ終わる。

「絵はすごいよ。うまく話せない僕を、全部受け止めてくれるから」
「じゃあ今日からその役目は俺な。なんでも言ってくれよ」
「狩屋くんじゃ無理〜」
「ええ!?そんなに俺の事…」
「じょーだんだよ、じょーだん!よろしくね、マサキくんっ」

別れ際の笑顔は、今までで一番だった。
また明日も会えるのに、これからも毎日会えるのに、ちょっとだけ寂しい。

「また明日なーっ!!!」
「気を付けてねー!」



半分溶けたチョコレートを指ですくいながら、明日はどんなことを話そうか考える。
俺もスケッチブック買ってもらおうかな。
絵のコツとか教えてもらおうか。
綺麗な色の作り方とか。
上手になったらお互いを描きあうとか、いいかもしれない。

「文房具屋さんってまだやってるっけ」

一応持ってきた財布の中身と相談しながら、文房具屋へと走り出した。






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