Novel

 守り人【後】

胸騒ぎがして飛び起きる。
まだ夜明け。青黒い空は、余計に俺の不安を掻き立てた。


カーディガンを羽織って塔へ向かう。
仕事があるせいで実家と塔は遠い。いつでも向かえるように準備はしているものの、やっぱり心は休まない。
俺は彼を庇った男。いつ殺されるかもわからないから、あまり頻繁に近づけないのだ。

いつもの街並み。
静まり返っている、いつもの、いつも通りの。

「違う…」

そう。
どこか違う。

例えば花壇の花。いつもは西向きに咲いている花が、今夜はなぜか東向き。
そして家畜たち。落ち着きがなくそわそわ。あそこの家の鶏が一匹足りない気がする。
風。この辺りの気候は比較的乾燥しているのに、少し蒸し暑い。

「っ…篤志さん…!!」







塔には誰もいなかった。
見張り役で、信頼していた天馬や蘭丸の姿も見えない。
連れ去られたか、殺されたか、あるいは………いや、そんなことはない。
ただただ空しく風に舞う、純白のカーテン。

「た…た、くと……!!」
「蘭丸!!!」

振り向くと剣を杖代わりにしてやっと立っているボロボロの蘭丸がいた。
血まみれで、髪もボサボサで、誰かに襲われたのが見てわかる。
俺は逸る気持ちを抑えつつ、できるだけ冷静に声を絞り出した。

「ごめ…ゲホッ、あ、つしさんが…さっきっ」
「無理するな!お、落ち着いて」
「東だ…ひがしっに、あいつは逃げて…」
「蘭丸は」
「俺はどうにか、するからっ……早く篤志さんを!!!!」


東に、東に。
足跡はすぐに見つかった。軽く見積もって20人ほど。
篤志さんのリストバンドが1つ、寂しげに落ちていた。

「篤志さんっ篤志さん!」
「…く………と…?」
「あ、篤志さん……?どこですか?篤志さん!!!」



「遅かったですね」

聞き覚えのある声が響き渡ると同時に、目の前が人で覆い尽くされた。
見たことある奴らばかり…そうだ。前に篤志さんを襲った奴、俺がぶっ倒したはずなのに…

「…天馬ぁ!!っ何故だ!お前は…お前だけは信頼していたのに…何故だ!!」
「勝手に信頼されても困るんですよねぇ」

ザッと土が舞った。
群衆のざわめきが一瞬にして消え去って、天馬がでてくる。

「んなっ…篤志さん!!」

篤志さんは天馬の右手で抱えられていた…そう、たった一本の右手で。信じられない力だ。
意識がないようで、ぐったりとしている篤志さん。
外傷がないところから大方睡眠薬でも入れられたのだろうか。



「あはは。知っていますか?人は死ぬ時が一番きれいなんですって」

「っまさか!天馬!やめろ!!」

止めようとすると後ろから羽交い絞めにされる。
もともとの細さのせいで逃れられない。向こうの方が、断然ガタイがいい。

「眠っているせいで声が聞けないのが残念ですけど…まぁしょうがないですよね」

「やめろ!!天馬やめろ!んくそっ離せ!このっ」

「拓人さんも、こんなきれいな人の最期が見られるなんて幸せ者ですね。俺もですけど」

大切な人が、殺されそうなのに。自分はなんて非力で、無力なんだろうか。

「ではいきますよ」
「やめろ!天馬やめてくれぇっ!やめろぉぉぉぉおおぉぉお!!!!!!」

パァンッ


乾いた音。

二度と聞きたくなかった音。

胸に向けられた拳銃は赤黒く光っている。

鉄のにおい。

力が抜けた。腰がバラバラに砕け散ったような、そんな気がした。

「はは…くっ……あははははははは!!!!」

さっきと変わらない。眠っているようなのに、上下しない胸。

「きれいですよぉ…ねぇ拓人さん?」

もう返事をする気力もなくなってしまった。
どうでもいい。
彼がいないのなら、この世など、どうでもいいちっぽけなもの。

「どうでもいい、そう思っているでしょう」
「…」
「なら壊してしまえばいいんです。こんな世の中、どうでもいいじゃあないですか」
「どうでも…いい…」
「恨んでください。精一杯、愛する人を殺されたことを恨んで」

恨む…?どうでもいい、世の中を…?

「篤志さんは俺が殺した。そうですね?」
「っ…あぁ」
「そんな俺を育てたのはこの世界、生み出したのもこの世界」
「…あぁ」
「恨んでください、彼を殺した元凶はこの世です。ひたすら恨んで、壊してください。」

恨んで。篤志さんを殺した原因を、壊す。ひたすら、壊して、恨んで、…

「う…頭が…痛いぃ……」
「俺と手を組みましょう、そうしたら彼を殺した元凶をすべて壊せる…」


「うっ…うわぁあぁあああぁぁぁああああ!!!!!!」















そこから先は、何も覚えていない。





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