Novel

 守り人【前】

「篤志さん!入りますね」
「また来たのか?仕事は」
「いいんです!ちょっとくらいサボったって」
「お前なぁ…」

目の前の彼、篤志さんは、男でありながらそれはもう言葉に出来ないほど美しい人である。
例えるならば淡い藤色のアネモネか。花開いた青いバラか。



透明感のある潤った白い肌。
濃い赤紫の髪は、金やら宝石やらでちりばめられたこの部屋に良く映えている。
シトリンのような不思議な目をふちどるまつげは長く、しつこすぎない程度に瞳を飾っており、またそれが彼の美しさを一層際立たせていた。
整いすぎた顔に控えめにのせられたいちごみるく色のふっくらとした唇からは、とろけそうに甘く、なめらかな声が出る。

アレキサンドライトを埋め込んだサークレットも、ダイヤモンドを散りばめた上質のケープも、所詮は彼の美しさを引き立てるに過ぎないただの道具。



何もかもが完璧だった。


「今度は何がほしいですか?真っ赤なルビーの首飾り…いや、パールのイヤリングなんてどうでしょう」
「…そういうの、いらないから…外に出たい」

そう言ってそっぽを向いた。もう何十回、何百回と聞いたフレーズだ。

さっきも言った通り、篤志さんは美しい。
だけどその美貌故に彼を巡った争いは絶えず、ついには故郷もなくなった。

名の知れた富豪の跡継ぎや、町一番の大商人、さらには一国の王から直々に城へ来るように言われたこともあったそうだ。

しかしそれを断った瞬間、王は大勢の軍を向かわせ、力ずくでも篤志さんをそばにおこうとした。
そんなのは俺が許さない。
だから俺はこの塔に彼を閉じ込めた。
なるべく不便がないように心がけながら。
ただひたすら、守るために。


「…もう少しだけ、待ってください」
「いつもそう言う」

小さな口が、何かを言いたそうに開きかけたが、すぐに閉じベッドにもぐりこんだ。

彼もわかっているのだ。
自分が狙われていることを。





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