Novel
ミントグリーンと14日
会いたい。
ぽつり呟いた言葉は、どうしようもなく情けなかった。
自分のベッドに飛び込んで枕に顔をうずめる。
遊びに来るたびここで熟睡した南沢さんのにおいは、もう、なかった。
当時は、なんてずうずうしい先輩なんだだのぶつぶつ言っていたけど、いざ居なくなってみると寂しくて仕方がない。
当たり前が、当たり前でなくなった。
泣きたくなって、鼻の奥がツンとなって、紛らわすために携帯をいじってみた。
けど、電話履歴にもメール履歴にも南沢さんの名前が無機質に並んでいて逆効果だった。
待ち受けに戻して、日付を確認。2月14日がもうすぐ終わる。
俺の恋人(いや、元恋人というべきであろうか)南沢さんは、何も言わず転校してしまった。
その後再開したものの全く連絡はなく、現在進行形でそのまま。
いわゆる自然消滅ってやつかもしれない。
もう転校から大分時間が経つというのに、未だ信じられない俺はむなしい人間だと思う。
どうせ出ないから。どうせ来ないから。どうせ。どうせ。
メールや電話をやめたのはいつからだっただろう。
「どうせ、出ない」となれたように履歴から名前を探す。けっこうすぐだった。
プルルルルル
長いコール音。ほら、出ない。
プルルルルル プル…ガチャッ
あれ?コール音が途切れた。
「…倉間」
「南沢さん!!!?」
「後で掛け直すから、ちょっと待ってて」
たったこれだけ、されどこれだけ。
南沢さんの声を最後に聞いたのはいつだったか。今やそんなことはどうでもよかった。
掛け直す、と確かに言った。心の中で小躍りしたいほど舞い上がっている俺。
〜♪〜〜♪
バイブで机から落ちそうなのをなんとか受け止めて、テンパりながら携帯を開く。
あの人らしいシンプルなメール。
「今お前ん家の前 開けろ 寒い…?……っっえぇぇぇえええ!?!?」
慌てて階段を駆け下りる。
がちゃっ
「よっ」
やけに軽いノリで、雪まみれになりながら立っている。
「寒いから入れろ」
「へ?は、はい」
「うん、3分前、ギリギリセーフ」
???
何が???
「しばらく会えなくて、ごめんな」
これやるよ、と雑に放り投げられた小さな箱。俺の好きな淡いミントグリーンの箱に水色のリボン。
「なんすか?これ」
「早くしねーと14日終わる、ほら開けろ」
催促されてシュルシュル解くと、
「チョコ…?……あっ、バレンタイン!!!」
「正解」
どうせ。でしばりつけていたのは俺自身だった。
だって南沢さんはこんなに俺を想っていてくれたのに。
気づいたら涙が出ていた。
「好きです…南沢さん、大好きです…」
「俺も、愛してるから」