Novel

 きりたくない

□きりたくない
 

 夕食が終わって、ひと段落したころ。
 勉強でもしようかと、時計をみたら7時を少し過ぎたくらいの時間で、そういやみたい番組があったな、と思っていたころ。
 勉強机の上のピンク色の携帯の着信音が鳴り始める。曲からして電話だと分かったが、この曲は、もしかして。もしかして、あいつから俺に電話?
でも、この曲はあいつの電話だけに設定している曲だし。
 どきどきして少し指が震える。
昨日の試合でも結局1つも会話を交わせないままだったしな。会話をするのはもう一ヶ月以上ぶりだったりする。
 何を話せばいいのだろうか。あいつは怒っているだろうか。それとも…寂しがってくれているのだろうか。
 ドキドキしている自分に気がつかないフリして、無理やり深呼吸をしてから、携帯の通話ボタンを押す。

「…も、もしもし」

『あ、やっと出た。南沢さん出るの遅すぎっすよ』

 やっぱり、あいつだった。特に怒っている様子でもないし、えぇと、特になんでもないんだけど、うん、よかった、嫌われていなくて。

「で、なんか用なワケ?」

『うーん、なんとなく?』

「なんだよ、それ」

 俺が向こうにいる間も、あいつはいつも俺に突拍子も無いことをしては、けらけら笑っていた。
変わらないな、と心の中でつぶやく。
 変わらないでいてくれて、うれしかった自分がいた。

「お前は、楽しくサッカーやっているか?」

『まぁ、楽しくやっていますよ』

「サイドワインダー、いつの間に完成していたんだよ。正直びっくりした」

『ふふ、すごかったくないすか?
 あんな1年に負けたくないんでね。南沢さんもソニックショット、強くなってましたよね』

「まぁな」

『なんすか、その余裕そうな感じ』

「実際そうだろ?」

『うわぁ、ナルシスト!』

 懐かしい笑い声。くすりと微笑んでしまう自分がいた。
久しぶりだな、と思ったり、懐かしいな、と思ったり。
 でも一番、かわいいな、とか、好きだな、と思った。

『ん、何笑ってるんすか』

「何でもない」

『そーすか?』

 そしたら、またあいつが笑う。

「なんで笑っているんだよ」

 仕返しとでも言うかのように俺は同じ質問を返す。
そしたら、平然と

『アンタがかわいいからっすよ』

とか返してくる。
 は?と間抜けな声を出してしまった。

『かわいいですよ』

 いくらかいつもの声より低い声。電話だからって、耳元でそんなのが聞こえたら、ちょっと照れくさい。

「…そうか」

 どうしようもないほど照れくさかったので、それだけいって、黙りこくった。
 悪いのは、ちょっと見ないうちに格好良くなってしまっている倉間のほうだ。

『照れてるんすか、篤志さん?』

 「調子にのるなよ」といいつつも、通話終了のボタンを押さない俺も俺だ。







 羽深さんからの頂き物
本当にありがとうございます。







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