Novel

  後日談

ふと目に留まった、一つの写真立て。
懐かしいなと手にとってみる。少しだけ埃っぽかった。

中の写真には、はにかみながら必死にピースしてる自分と、
「神童さーん?」「悪い、今いく」

余裕そうな笑顔で笑ってる、懐かしい貴方。


「どうしたんですか、にやけちゃって。演奏会行くんですからから集中してくださーい!」
隣でちょっとむすっとしてるのはかつての後輩、松風天馬。
今は仕事関係の…助手って感じか?

あれから10年、色んな事があった。まわりの環境も変わった。

「あちゃぁー渋滞ですよー間に合わないかもしれないです」
「いいよ、めんどくさかったし」
「ダ・メ・で・すぅ!」
ははっと笑うとまたむすっ。
もう23の男だが、まだあどけなさが残るむすっ。
なんとなく、可笑しかった。


何分か経って時計を見る。もう既に、遅れてる。
「あーあ始まっちゃいましたよ、おこられるかなぁ」
「大丈夫さ、ワザとじゃあないんだ。」

正直いうとめんどくさいだけなんだが。
わざわざ遠い所へ、指揮の勉強のため演奏を聴きにいくなんて馬鹿げてる。
断ろうとしたら天馬がダメです!なんて真面目な事いうから、あーあ、俺、性格変わったかな。

「…そういえばー……何か言おうと…うーん、なんだっけ」
どうせそんなに重要な事じゃないだろ、で終わった。
我ながら酷いな、心の中で苦笑。



結局ついたのはギリギリだった。
客席に入って、渡されたプログラムを見ると、見慣れた名前。


"では最後の演奏となります。現在ウィーンで…"


長い説明はまるで耳に入らず、今目の前で起こっている事を必死に理解しようとする。

「みなさん、今日はお忙しい所ありがとうございました。ピアニストの…」

聞き覚えのある高めの声。
ツヤツヤしてて、ちょっとはねてる紫の髪。
特徴的な目。
相変わらずの身長。

「南沢さん…」





「悪い、急用が出来たから先帰ってくれ。夕ご飯はいらない。タクシーで帰ってくるから。」
「えーっそんな事急に言われましてもぉ!!!」

明日も練習あるんですよって軽くお説教され、10時には帰ってきて下さいで解決した。
「悪いな、しばらく練習出れなさそうだ。じゃあ」
後ろでギャーギャー騒ぐのを耳にして、帰ったらまたお説教かな、と思った。




「久しぶり、乗れよ。」
「はい。」
と、南沢さんが運転してる、高そうな車の助手席に乗せられた。

「まさかここで会うとは思わなかったよ、神童。」
「知らなかったです。南沢さんがくるなんて…」

正直、嬉しすぎて涙が出そうだった。

何年立っても、南沢さんのピアノは綺麗だった。

「あの、ピアノ…南沢さんって独特な弾き方してません?何回も色んな人のピアノ聞いたんですけど、やっぱり何か…」
「癖はなおらないなー、やっぱり。ちょっと指が斜めな事だろ?」
うんうんと頷けば、顔必死すぎってカラカラと笑われた。

あの日と同じ、笑い方だった。

「また会えてよかった。」
「俺もです。」

ズボンをギュッと握る。南沢さんの横顔は綺麗だ。

「強くなったな、神童。」
「?」
「泣かなくなった。成長したな。」
「も、もう24なんですよ!!大人です!!泣きません!!」

嘘つきってデコピンされてキスされた。

「ほら、半ベソ。」

「〜っ!!!」

恥ずかしさと子供扱いされた悔しさで、手入れされた綺麗な唇にキスをした。
「うおっ!不意打ちかよ」
「いつまでも14の俺じゃないですから」
「でも泣きそうだぜ?少なくとも俺は」泣きそう、嬉しすぎて。


…南沢さんは人を泣かせるのが上手い。



「お帰りなさい、南沢さん。」
「ただいま、神童。」





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