Novel

  08

春。

出会いの春とは違う、別れの春。

桜が咲き始め、ほんのりとピンク色に染まった小さな花びらは、殺風景な道を綺麗に彩ってくれた。


あの日から大分月日が経ち、今日は南沢さんの卒業式。
“あの日”より少し薄汚れた、それでも綺麗な群青の制服を来てホックをしめた。

準備は、OK。


卒業式中ずっとそわそわと落ち着かなかった。
泣いていた人もたくさんいたけど、南沢さんは後ろの方だからあまり見えなかった。
あの人のことだから恐らく泣いてはいないだろう、きっと、いや多分。


式が終わってから、やっと南沢さんと話が出来た。
…と言っても昨日会ったばかりだが。
「南沢さん!」
最後の場所は
「神童。」
やっぱり、音楽室。

出会って、恋して、笑って、泣いて、苦しんで、楽しんで…
たくさんの思い出はこの音楽室から始まったのだ。
しかしこの思い出の場所は、来年から使われなくなる。
2人で弾いたピアノも、寿命という理由で処分が決まった。
悲しい。
でも、もう2人の思い出に誰も立ち入れなくなると思うと、少しだけ得した気分。


「南沢さんって将来は何をするつもりですか?」
南沢さんは、留学する。ずっとずっとあえなくなるから、寂しい。
「んー今のところは音楽関係…やっぱりピアニストとか?」

ニコッ
「俺は将来、絶対指揮者になります。」

「いきなりだな。なんで?」
「やっぱり、大好きな音楽と関わっていたい。それに、」

音楽続けていれば南沢さんに会えるから…


「し…神童?」






「、南沢さん…あの、そのー………すっ好きです!」


「は?」



思い切って言ってみた。
あーきっとドン引きしてるだろうな…しまったな…。

「あっあの、えっと…」

フッ
「神童、可愛い」
「みなみさ…」
最後まで言えずに口を塞がれた。

柔らかくて、あったかい。
それが南沢さんの唇だと気づくのに時間は掛からなかった。

「●※▽■◇?!?!?!?!」
「篤志でいい………拓人。じゃあ、……またどこかで。」

そう言ってドアを開け、出ていくみな…篤志さん。






「いっ今まで、本当に、ありがとうございました!!!!」ニコッ

今日見た南沢さんの背中は、何よりも誰よりも愛おしく頼もしく、それでいて何となく
「大人になったら、会えますよね。」





大きく見えた。





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