Novel

  07

「あの、南沢さん。」
深く、深く落ち着いて、深呼吸。

「お姉さんと同じお願…いします…俺の夢、かっ叶えって…叶えてくだ…さい。」
泣いちゃいけない、何回も心の中で唱えたのに、俺の涙腺はもろすぎた。

「えとあの、南沢さんならっ…ピアニスト、なれると思うんですっ…本当は、ピアノ大好きなんですよね…っ」

南沢さんはずっと、ただうつむいたままだった。
静かな病室、なんの音も無い病室に、俺の鼻をすする音だけが聞こえる。

「…今、神童と姉さんが重なった。ずっと、姉さんの命を奪ったって、ピアノが憎かった。嫌いだと、」
南沢さんが続ける。

「思ってた…思ってるつもりだった。」

泣き笑い。今の南沢さんにはぴったりの言葉だ。

「俺は今まで何を思ってやってきたんだろうな。」
一言一言が今の俺には重い。また涙が出そうになる。
「俺は、お前のため姉さんのため、俺自身のため…ピアノ弾き続ける。だから、」

もう、泣かないでほしい。

そう言ったのを、確かに俺は見て聞いて。
鼻の奥がツーンと、あ、また泣いてしまう。今日だけで何回泣いただろうか。



南沢さんが帰った後、1人で未来の自分へ1つの約束をした。

“もう泣かない事”

たったそれだけ、されどそれだけ。
未来はきっと明るいに違いない。そう信じることにした。






「俺が退院したら、1番最初に南沢さんの『愛の夢』が聞きたいです。」
「げ、マジかよ」
「大マジです。因みに退院は2週間後です。」
「分かったからプレッシャーかけないで…」
「期待してますよー南沢さんのピアノ、もう3ヶ月近く聞いてませんから。」
「2週間で完璧か…でも、まぁ神童のためなら頑張れそう、かな?」ニッ





今が有るのは昔のおかげ。
夢が見れるのは今のおかげ。
あの事故が神様からの試練だとしたら…

今こうしてたわいのない会話で笑い合えるのはご褒美なのかもしれない。




未来へ歩こう、進もう。
後ろを向いたって、その場に立ち止まったったって、何も変わりはしない。
今どんなに辛くて苦しいことがあっても、後にはきっと、絶対に幸せがやってくる。
笑い合えるのが幸せで。
貴方がそばにいるだけで幸せで。
この経験から得た事、たくさん有るんだ。





小さなことが幸せです。
そう、たとえどんなに小さなことでも。





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