Novel

  04

『ピアノ、お上手なんですね。』
俺はこう言った事を後々後悔する事になる。

「そうでもねーよ。ピアノ、嫌いだし。」
「そうなんですか…?勿体無いです、せっかくお上手なのに。」
本心だった。
あんなに上手なのに嫌いだなんて。
勿体無い。もっと上手くなれるのに。
だが俺の心とは反対に、南沢さんの顔はどんどん険しくなっていった。
「…お前名前なんだっけ。」
「神童…拓人です。1年生で…」
いらいらしてるのがわかった。
何か失礼な事、言ったっけ…心当たりがない。
「いいか。俺はピアノが大嫌いだ。俺がピアノをやっているのは、」
そこまで怒鳴られて気づいた。

初めて見る、南沢さんの泣きそうな顔。

「あの…よかったらお話、聞かせて頂けませんか…?失礼な事を言ったのは謝ります。でも、もっともっと、南沢さんのことが知りたいんです。」
睨まれた。今までにみた事の無いような形相で。
「…今日は時間、大丈夫なのか。」
「はい…。」
「長いけど途中で飽きんなよ。」
そう言って話し始めた内容は、想像を超えるほど壮絶なものだった。


南沢さんには9つ上のお姉さんがいた。
容姿端麗、文武両道、性格も良く皆から愛される、自慢のお姉さんだったそう。
南沢さんの家系は音楽系で、特にお母さんは有名なピアニストだった。
お姉さんも南沢さんも小さい頃からピアノを習っていて、お姉さんは特に将来有望だったそうだ。
しかし、10年ほど前、お姉さんが交通事故にあってしまった。
その事故が原因でピアニストの夢が消えてしまったお姉さんは、数日後、病室の窓から落ちて亡くなった。
ピアノが弾けなくなったショックでの自殺だったそうだ。


「わかったか?俺がピアノ嫌いな理由。」
「全然……ち、ちっともわかりません!そもそも、何でピアノやっているんですか!」
ピアノのせいでお姉さんが亡くなったと思うなら、ピアノなんてやってないはず…なのに…
「はぁ……姉さんが死ぬ前にピアノだけは続けてくれって言われたんだよ。これが俺の全てだ。他になにかあるか?」
俺は唖然としていた。
南沢さんは、きっと話すのも辛かったに違いない。
傷口を抉るような事をした自分を殴りたくなった。
すみませんでした、と1言言ってから、音楽室を飛び出した。


空は黒く、大粒の雨が降っていた。






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