Novel

  03

あれから走って、帰っている途中で気がついた。
あの人の名前聞いてない…
もちろん引き返せる時間も体力も無く、俺は泣く泣く家に帰ったのだった。

次の日のチャンスは夕方だった。
昨日の時間も確か夕方だったしもしかしたらいつもいるのかも、という淡い期待からの結論だ。
と言う訳でとりあえず、近い2年生のフロアへ。
何しろ雷門中はここらで1番大きい学校なのだ。人探しも一苦労。
そう心の中で思いながらしばらく探していると、仲良くしてもらっている三国さんに会った。
「お!神童じゃないか。」
相変わらず元気そうである。
「こんにちは。少し、人探しをしていて…」
「そうか、名前は?」
「名前を聞くの忘れてしまったんです。紫の髪で、少し背が低くて、口数少なくて、ピアノに詳しい人なんですけど。」
すると突然ハハッと笑いだした三国さん。
「それは多分南沢の事だな。ピアノがどうとかは聞いた事ないが。」
南…沢さん?あの人の名前は南沢さん…。
「あいつに用があるんだったら、そうだな…今は音楽室だと思うぞ。あいつ何かと音楽室にいるから。」
「ありがとうございますっ」
三国さんの話を最後まで聞くか聞かないかで、俺は走り出した。

…いけない。また廊下を走ってしまった。

音楽室に近づくにつれ、ピアノの音が聞こえてくる。
少し焦り、少し緊張しながら勢いよく戸を開けた。
やはりと言うべきか、ピアノを弾いていたのは南沢さんだった。
でも俺が来た途端、南沢さんはピアノから手を離して席をたってしまった。
「あの…こんにちは。昨日はその、えっと…すみませんでした。」
何も言わない南沢さん。
長い、長い沈黙。

耐えられなくなった俺はこう言った。
『ピアノ、お上手なんですね。』





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