Novel

  02

「すみません…」
「…別にいい。それより続き、」
弾いてくれない?とその人は言う。

俺は焦っていた。ただ上級生だからではない。
容姿端麗、雰囲気も好みで声も中性的。あとなんと言うか……エロい。
まだ春といっても日々暑くなっていってるからか、はたまた放課後だからなのかは分からないが、胸元のボタンが3つ、とれていた。
おかげで、その人の少し汗を含んだ白い肌が丸見えで…。惚れる。
「弾かないのか?」
その人が俺に求めてる事がたまらなく嬉しくて。
「すみません。少し、見惚れてしまって」ニコッ
少し意地悪してみた。
予想通り、耳まで真っ赤なその人。
俺は心の中で小さく笑い、ピアノに向き合った。
指を鍵盤におろすだけで集中力が一気に高まる。

この曲はリスト作曲の「愛の夢」。
そんなに難しくはないが、この前の発表会で弾いた思い出の曲だった。
「愛の夢か。上手いな。」
透き通るような声。
自分を褒めてくれているのだとわかった時、顔が熱くなった。
でも俺がこの曲に込めた思いはきっと届いてはいないんだろうな。

「…F…そうだFのキーが半音下がってる。本当に少しだけど。」
…え?今、何と?
「お前、調律できる?」
「でででできませんよ!?」
だよな、とケラケラ笑うその人につられて俺も笑う。そしてふと、気づいた。
「あの、もしかして絶対音感持ってますか…?」
さっきFが半音下がってると確かに言った。もしかしたら…
「絶対音感?あぁ多分あるわ。と言っても調律とかできないから意味ないけど。」
やっぱり。

俺には絶対音感がなかった。
というか絶対音感は生まれつきであって、努力してできる事ではないのだが。
自分の夢がピアニストなだけあって、俺はそれがコンプレックスだった。

「お前さ。もう6時だけど帰らなくていいのか?」
気づくと既に時計は6時をまわっていた。
「すみません!お先に失礼します!!!」
そう言って俺は音楽室を飛び出した。


その人が「お互い名前も言わず…」と小さく笑っていたのを、俺は知る由も無い。





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