Novel
最初で最後の贈り物
ガチャ
ドアを開けたら、
「南沢さん」
お前がずぶ濡れで立っていた。
「倉間、お前」
「ちょっと濡れちゃって。タオル貸してください」
「あ、あぁ」
そういう倉間の顔は青白い。そして全身ずぶ濡れ。
俺は動揺を隠せない。
「いきなりですみません。携帯落としちゃったんですよ。」
「…そうか。」
タオルでいくら体を拭いても、濡れてぺたんこになった髪の毛と、色が濃くなった橙のパーカーは乾く気配がなかった。
「南沢さんに会いたかったんです」
知ってる知ってるさ。お前が俺に会いに来たことぐらい、知ってるさ。
でも、何で。
「何でお前がここにいる」
「何って、会いたかったからですよ。」
目を見開いた。
でもすぐに俺は悟って、静かに目を閉じた。
「…会いにきてくれて、ありがとう。」
いつのまにか、やっぱりいなくなっていた倉間。
タオルは確かにぐしょぐしょに濡れている。
でも温かみは、倉間の温かみはまったくない。それも、そうか。
『南沢さん!倉間の…倉間の乗った月山行きの電車で事故があってっそれで、それで…』
本当は知ってたんだ。
お前がびしょ濡れだったのは、その電車が川に落ちたからだろ?
お前が俺に会いにきたのは、俺が会いたいって言ったからだろ?
お前がいつのまにか消えたのは既にこの世に居ないからだろ?
「それで最後に俺に会いにきたのは、これを渡したかったんだよな、違うか?」
俺が渡した、今はぐしょぐしょのタオルの中に、大事そうにくるまれていた小さな箱。
中に入っていたのは、
「お前らしいな、倉間」