Novel
あなたが逝くまであと
「お久しぶりですね。」
「霧野…と神童か。」
「会いたかったです、南沢さん…」
今日は久しぶりの練習なしの日で、神童と新しいスパイクでも買おうかと商店街に来た。
そこで今はもう中々会うことのできない、転校した南沢さんに会った。ただそれだけのはずだった。
「神童、フィールドでは強がっていたんですけど。あの後バスの中で大泣きで大変だったんです。」
「ば、ばか!言わないって約束しただろ!!」
「そうか、神童。俺がいなくて寂しい?」
今目の前の2人は、幸せに満ち溢れているような…というか幸せなんだろうけど。
神童と南沢さんはいわゆる恋人同士だ。
神童は南沢さんが好きで。
南沢さんは神童が好きで。
でも俺は
南沢さんが好きで。
「…で今は…という…」
「へえ、頑張ってんじゃん。」ニコッ
なんて奇妙な三角関係。
ムカつく。ムカつく。ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく。
南沢さんを俺のものにしたい。
俺だけのものにしたい。
誰にも笑顔を見せたくない。
…そうだ。
俺はそっと鞄の中の筆箱からハサミを出した。
それを右手に
1
2
3
あなたの背中に突き刺さる。
ぐちゅ。
変な音。気色悪い音。
ぐにゅ。
変な感触。気色悪い感触。
手にこびりつく赤黒い血。
真っ赤に染まっていく白いシャツ。
「南沢さんは」
どんな姿でも綺麗です。
ハサミを抜く。
血がさらにどくどくと。
「南沢さあん!!!!!!」
神童の大きな泣き声で、時間が動き出した。
俺は取り押さえられる。
ピクリとも動かない真っ赤に染まった南沢さんと救急車に乗るまで、神童は何も言わず、ただただこっちを光を失った目で見ているだけだった。
「へっ…ザマーミロ」
この事件の数日後に俺が突然消えたのは、また別の話である。