Novel

 道端スケッチブック

今月の輝くんのスケッチブックは深緑。
どうにもこうにも2月が緑とくっつかなくて、なんでって聞いたら

「あのね、雪の下とかから緑がチラって見えるの、好きなんだ」


輝くんと一緒にいるようになってからもうすぐ1年。
暇で暇でしょうがなかった4月の自分を考えられないくらい、今の俺は幸せでいっぱいだ。
ただ道を歩いているだけなのに、たんぽぽが元気になったとか、あの雲はいつもより大きいとか、小さなことによく気づくようになった。
そんな俺を見て天馬くんはからかったりするけど部活中剣城くんばっか見てるの、俺知ってるんだぜ。


「青がない、白がない、オレンジもなくなった!」
「何をそんなにかいてんだよ・・・」
「内緒ないしょー!」
「ふーん、青、間違えて買ったからあげるよ」
「ふぇ!いいの?ありがとー」

深緑のスケッチブックには、道端で見かけた小さな春が詰まっている。
もちろん輝くんが1人で見つけたものもあるけれど大部分は2人で見つけた春だ。
何か、そんだけでも嬉しい。

「はやくはやくー」

スケッチブックを抱えながら2人で走る河川敷、しゃがみこむ輝くんにそれを見る俺。
もう周りの人には当たり前の光景だけど俺は当たり前だと思わないようにするよ。
小さな幸せを、大切にする。

だから、

「春みっけ!」

どこにもいかないで。





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