Novel
もどかしくて
「狩屋くん」
君は俺のことを、いつもそう呼ぶ。
呼び方なんて、そんなにこだわらないさ。でもさ、関係が関係で俺たちは恋人同士なんだ。それなのに輝くんと言ったら天馬くんのことは「天馬くん」って呼ぶし。結論から言えば、輝くんから名前呼びをされたことがないということだ。
「ひーかーるーくーん」
「あっ、狩屋くん」
そう言って俺に駆け寄る輝くん。まじ可愛い。…じゃなくて、
「影山くん」
「ん?」
「輝くん」
「ん?」
ああ、なんとなく分かった。輝くんはあんまり名前を呼ぶことにこだわってないようだ。だから俺を狩屋くんって呼ぶんだな。分かった、分かった。だからって簡単に引き下がる俺じゃないし。
「輝くん、帰るよ」
「えっ、うん!」
肩に斜めにかけた通学カバンを掴みながら俺の隣を歩く輝くん。輝くんにはまだ教えていないが、今から俺の家に行く。そこで絶対にマサキって言ってもらうんだ。そうしないと気がすまない。
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「おじゃまします…」
「あー、そこらへんにカバン置いててー」
よし、連れ込んだ。ここまでは計画通りだ…よし、いけるぞ俺。名付けて「輝くんから名前で呼んでもらおう大作戦」だ!!!…普通過ぎたかな…ありきたりか?まあ、俺の作戦は完璧だから関係ないな。
「ねぇ、輝くん」
「なに?」
「俺のこと、名前で呼んで」
「マサキくん」
「…え?」
あ、あれ?
輝くんすんなり言っちゃったけど、え、は?ひひひひ輝くん予想外すぎるんだけど。もうネーミング考えてる場合じゃないわ、本当。
「どうしたんです、狩屋くん?」
「あ、いや別に…」
やっぱり輝くんって天然なんだな。改めて実感したよ。俺はてっきり照れて言えなくなる輝くんを想像してたのにな…照れ顔見たいな。見たくなってきた。
「輝くん」
「何ですか?」
いつの間にか勉強をしている輝くんの耳に息を吹き掛けてやった。可愛い声を出したかと思えば、顔を真っ赤にして耳を押さえながら俺を見詰めてくる。可愛い、可愛い。
「な、なにするんですか!」
「見たくなっちゃった」
「へ…?」
「輝くんの照れたとこ、見たくなった」
そのあとに「壊したい」なんて言えば湯気が出るぐらい顔を紅潮させている。まあ、まだそんなこと出来るとは思ってないけどさ。輝くん、いつまでも止まったままだから優しく抱き締めてやった。そしたらいきなり胸に顔を埋めてきて、まじ可愛い。これって甘えられてるのかな。
「ま、」
「輝くん?」
「ま、まままままさきくん…」
胸から少し顔を上げて俺を見詰める。やば…魔性の女ってやつだな、輝くんって。本当、誘ってるのかって感じ。
「ん、なんだ?」
「大好きです」
「な、なんだよいきなり」
「大好き」
言い終えれば、また顔を埋めてきて甘えてくるように体を抱き締められる。あ、そういえば最近、2人の時間ってなかったな。だから、なのかな。だったら全部全部注いでやろう。この全ての愛を輝くんに注いでやるんだ。
(もどかしくてごめんね)
(僕だって輝くんって呼ばれて嬉しいんだから)
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めいめい。の狼悸さんから相互文いただきました
本当にありがとうございます!
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