君ニ捧グ-1 (ページ4/9)
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月がキレイな夜だった。

すっかり遅くなっちゃったな……。

任務を終えて里に戻ってきた私は、真夜中の空を見上げて、ふぅーっと体の疲れを吐き出した。
空には銀色に光る満月が、いや、満月と言うにはまだしっかり欠けの残る月が、それでもキレイな輝きを闇にはなって浮かんでいる。
その光のおかげで、夜だというのに辺りはだいぶ明るい。
私はもう一度、空にかかる月を見上げた。
こんな夜は真っ直ぐ帰るのがもったいなくなる。

ちょっとだけ遠回りして帰ろうかな。

月明かりに誘われて、私はいつもの帰り道をわざとはずれた。





遠回りがてら、夜道の散歩を堪能して、そろそろ家に戻るかと思い始めたとき、私の目に突き当たりの道を通り過ぎて行く人影が映った。
こんな夜に女の一人歩きなんて不用心だ。
今さらながら、そんな基本的な考えに至って、私はビクッと体を強ばらせると、すぐに物陰に身を隠した。
そこからソッと相手の様子を窺う。
オオカミみたいな風貌の黒髪の青年が、ポケットに手を入れ、無表情に歩いていくのが見えた。

……キバ?

知ってる姿が暗がりに浮かびあがってホッとすると同時に、情けないほどのドキドキ感が私を襲った。

なんだって、こんなに胸がいっぱいになっちゃうんだろう。

私は苦しい胸をこぶしでトントン叩いた。

あきらめるって決めたのに。
キバのことはもうあきらめるって、ずいぶん前にそう決めた。
そう決めたのに。



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