意外と賢さ-1 (ページ4/11)
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剥がす手に力を込めたそのとき、ふと名無子の視界の片隅に人の影が映りこんだ。
パッと視線を向ければ、この小道をタイミング良く通りかかる男の姿。
黒髪を頭頂部で一本に結った男が黒い長袖タートル、カーキのベストにパンツといういでたちで、かったるそうに歩いてくる。
まったく面識のないヤツではあったが、名無子は迷うことなく、デカ声を張り上げた。

「あのォー、ちょっと、すいませぇーん!!」

ぺったんぺったん足音高く近づいてくる男がパンツのポケットに手を突っ込んだまま、わずかに首を傾げるのがわかる。
名無子は必死に自分の足から子供を引き離し、間近にまでやってきた男にその子を勢いよく突きだした。

「いや、マジ、悪ィんだけど、この子預かってくんない? 私、これから、すっげぇ大事な用があんだよ。ガキ連れてくわけにいかねぇーし、ホント頼むわ」
「はぁ? 突然、何言ってん……」

相手に「だ」まで言わせず、名無子はたたみかけた。

「だから、このガキ預かれって頼んでんだろ?! っざけんなよ、キサマッ!!」
「なんでいきなりキレてんだよ?! っつぅーか、それが人にモノを頼む態度か?!」

お世辞にもいいとは言えない目つきの男は全身から迷惑だという雰囲気を立ち昇らせて、あからさまに顔をしかめた。



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