Happy 10 minutes (ページ3/5)
「名無子、お前、その手、冷え切ってるじゃないか」
ネジが一気に眉をひそめる。
私は慌てて胸の前で両手を振った。
「だ、大丈夫だってば。朝稽古が終わる直前にここに来て待ってるだけなんだし」
「それでも、そんなに冷たくなってるだろ」
「えっと……きょ、今日はカイロ忘れちゃっただけ! いつもはこんなに冷たくならないから」
手の冷たさのせいなんかで毎朝の出待ちをやめさせられたら大変だよ!
せっかくのネジとの逢瀬が減っちゃうなんてやだもん!!
私はなんとかネジを納得させようと、一番それっぽい理由である使い捨てカイロのことを持ちだして、必死に弁明を試みる。
ネジもネジで、一応、私の言い分を飲み込み、そいうことならとそれ以上キツイことは口にしなかった。
「待っていてくれるのは嬉しいが、風邪でもひかれたら俺が困る。とにかく、あったかくしていろよ?」
私の顔を覗き込むようにして告げるネジの気遣いに、手のかじかみなんてあッというまに消し飛ぶ思いだった。
「うん、ありがと、ネジ。気をつける」
「あぁ、そうしてくれ」
それでもまだ心配そうに私を見つめていたネジはふっと視線を切ると、すぐに辺りに目をはしらせ始めた。
きっと竹刀を握っている時の彼もこんな顔をしているんだろうと思わせる、隙のない鋭いまなざし。
それで周囲を見回したネジは自分に確かめるように静かに呟いた。
「誰もいないな」
そして、
――私の体を引き寄せた。
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