ハツカネズミに恋をする (ページ13/16)
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「悪気はなかったって、ホントに。ただ気持ちがチョウチョのほうに行ってたというか、ここになかったというか。そしたらいっぱい切れちゃったっていうか切っちゃったっていうか」
「だから僕は集中してよって」

言っただろう――

そう言おうとしたところで、僕がさっきから予測していたマズイ事態が起こってしまった。

ぶわぁぁあっ!!

窓から大量の風がこの部屋になだれ込んできたんだ。
窓が開いていれば風が入るのは当然で、それがそよ風程度であれば問題ない。
でもこんなふうに一気にかなりの風量が舞い込んできてしまったら、僕の髪を切っている以上、辺り一面にその切り落とされた髪の毛が吹き飛んでしまう。
せっかくレジャーシートを敷いてたって撒き散らされてしまったら意味がない。
さっきからそれを伝えようとしていたのに名無子にはちっとも届かなかった。

「あぁぁぁぁーー!!」

舞い上がる僕の黒い髪の毛に名無子が慌てた声をあげる。
空中に飛ぶその毛髪を一生懸命手でつかもうとする姿はとってもあたふたしていて、意味もなく回し車の中で走るハツカネズミのようだった。
とにかくいっつもせわしなくて、落ちつきがなくて、人の話を最後まで聞かずにチョロチョロ動くし、そのせいでしくじってばっかりいるし、本当にこの名無子って人はネズミみたいな人だ。
それもハツカネズミ。
白い肌に、光によって真っ赤に見える目を持つこの人はハツカネズミみたいだ。
思い立ったように右へ左へ動き回り、飽きもせず回し車を走りまくる、白い毛に赤い目をしたげっ歯類。
でも僕はあの小さなげっ歯類がわりと嫌いじゃない。
むしろ好きといっていいと思う。



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