ハツカネズミに恋をする (ページ10/16)
変な髪型にされたらどうしようか。
せめて変な髪型にしないでってことくらいお願いしておこうか。
いや、言ったところできっと聞きはしないだろう。
そういう人だから、この人は。
諦めの念にとらわれたとき、僕の髪にスッと櫛が入る。
僕の首筋がゾクリと震え、それから耳元にチョキチョキチョキと金属音が響いた。
小刻みに動くはさみの刃音。
僕の髪が少しずつ切られている現実に、僕の両目が右に行ったり、左に行ったり、無意識のうちに動いてしまう。
そんな僕の不安にまったく気づかず、名無子の手ははさみをせかせかと動かし続け、あげくちょっと調子にのっているのか鼻歌交じりにさえなっている。
本当に鼻歌とかやめて欲しい。
その思いを言葉にしようとして、やっぱり僕は思いとどまる。
言っても聞かないだろうな。
心の中でため息ひとつ。
窓からは温かい日差しが差し込み、それと一緒にふわっと風が舞いこんできた。
その風が僕の頬を遠慮がちに撫でていく。
そういえば、この部屋、窓が開け放たれている。
このままじゃまずいんじゃないだろうか。
さすがにそれは一言いっておこうと重たい口を開く決心をした。
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