ハツカネズミに恋をする (ページ9/16)
 bookmark?


「え、かぶ……」

言葉を言うよりも先に名無子は僕の頭からビニルの袋をすっぽりかぶせる。
そして、力任せに引っ張った。
頭の頂点からビニルに圧迫されまくって痛いというか、苦しいというか。
強引にぐいぐい引っ張られ、僕の頭の抵抗に負けたビニルがビッと裂け目を生じた。
僕の顔がゴミ袋の底からニョキッと突き出した。
手足はビニルの中に隠れ、頭だけが突き出た僕はまるで照る照る坊主のような姿だ。
なんだかちょっと空しい気分になる。
もしかすると照る照る坊主も描かれた笑い顔とは異なって、こんな思いで軒下につるされているのかもしれない。
僕を照る照る坊主におとしめた張本人名無子はといえば、すでに僕のそばに姿はなく、チェストの上をあさっていた。
雑誌の下から何か引き抜いてこちらに戻ってくる。
櫛だった。
一、二本、歯が欠けているようだけど、僕の髪を切るのには充分間に合うんだろう。

「さてとはじめますか」

僕の後ろにまわった名無子がゲームプレイを告げるように宣言する。
と思ったら、

「あ、そうそう」

またチェストのほうへと駆けて行った。
今度は手にはさみを握り、嬉しそうな顔で僕の背後へ戻っていく。
同じ場所を行ったり来たりする名無子は実験用迷路で迷うネズミみたいな感じだ。
非常に落ち着きのない姿で、僕の不安も煽られる。



(ページ9/16)
-9-
|
 back
select page/16

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -