ハツカネズミに恋をする (ページ8/16)
「はいはい、あがって」
名無子は先に玄関に入って乱雑に靴を脱ぎ捨てると、さっさと部屋の中へ足を進めた。
僕もここまで来た以上、仕方なくあがらせてもらう。
「……おじゃまします」
忍靴の転がる玄関の片隅に自分の脱いだ靴を揃えて置き、僕は名無子をゆっくり追いかける。
部屋の真ん中にブルーのレジャーシートを敷き、名無子は僕に笑顔を向けた。
「ここ座っててね」
「はぁ……」
乗り気でないものの、断ることもできず、僕は素直にその場所にあぐらをかいた。
名無子は僕の右手に位置するキッチンで流しの下の扉を開き、ガサゴソとやっていた。
左手には開け放たれた窓。
そこからいっぱいの光が降り注いでいる。
僕の左斜め後方にはベッドがあって、その並びに扉が二つ。
きっとトイレやバスルームがあるんだろう。
そこを過ぎると玄関があって、玄関脇には今名無子がいるささやかなキッチンスペースが広がる。
その端に、いつもは僕の座っている辺りで使っているのであろうミニ卓がカップやお皿といった雑多なものを乗せたまま寄せられていた。
僕の目の前には背の低いチェストがふたつ置かれてて、上に写真立てがのっかっていたり、雑誌が積み上げられていたり、うつ伏せになった時計が転がっていたりした。
「サイくん、これかぶって」
名無子が容量45Lの白いゴミ袋を手にやってきた。
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