ハツカネズミに恋をする (ページ6/16)
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翌日、木の葉の大通りに面した店の前で僕は立ちすくんでいた。

困ったな。
どうしようか。

自分の黒い前髪を引っ張り、その毛先を上目遣いに見つめる。
僕はこの少々伸び気味の髪の毛を切ってもらおうと行きつけの理髪店までやってきたんだ。
でもその店の前にまできて、今日そこがたまたま臨時休業だとはじめて知った。
いつも出入りする扉には告知の紙が貼られ、壁に並ぶすりガラスの窓からは電気の消えた店内の暗さが滲みでている。
明日ならいつも通り営業しているようだけれど、今度は僕のほうが任務で出かけてしまう。

だったら、あさって、また来るしかないか。
仕方ない、出直そう。

僕が未練を振り落とし、引っ張ってた前髪から手を離した時、

「なぁにしてんの、サイくん?」

横からひょっこりと女性が顔を突き出した。
ぎょっとしてみれば、それは昨日アンコさんに連行されていた女性、名無子だった。

「やぁ」

名無子は僕の挨拶なんか軽く無視して店のドアに貼られた休業案内に目を向けた。

「ははぁーん、さては髪を切りに来たけどお店がお休み、ってね?」

僕のほうを振り向いた名無子に頷き返す。

「そうなんだ。名無子はこの大通りに買い物に来たの?」
「……ん?! なんで私の名前知ってるの、サイくん?!」

僕の質問はまったく別の質問で迎撃された。



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