ハツカネズミに恋をする (ページ5/16)
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僕の言葉にアンコさんがニタリと笑って何度も頷く。

「よし、よし、サイ、立派な判断だ」

アンコさんはフフンと鼻を鳴らし、右腕にロックした名無子を見下した。

「残念だったな、名無子、そういうわけだ。見ず知らずのお前に優秀なサイが味方するわけないんだよ」
「くッ……」
「ま、これに懲りたらアタシの羊羹、盗み食いするんじゃない。ついでにすこしは人の話を聞いたらどうだ?」

羊羹の盗み食いより人の話を聞くことのほうが重要だと思ったが、余計なことは言わないでおこうと僕は黙ってふたりを見ていた。
アンコさんは僕に穏やかな一瞥をくれたあと、同行を嫌がる名無子をしっかり抱え込んだまま、その体をズリズリ引きずるようにして野原を去っていった。
ふたりの後ろ姿をしばらく眺めてから、あぁそうだ、と思いいたる。

絵を描いていたんだっけ。

僕はスケッチブックに目を戻した。
先ほど描いていた絵に筆をつけようとして、すぐに思いとどまる。
描きかけの用紙をめくって、まっさらな次のページを広げた。
僕はそこに、ハツカネズミの絵を描いた。





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