ハツカネズミに恋をする (ページ4/16)
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「アンタねぇ、アタシがあの辰屋の羊羹をどれだけ楽しみにしてたか言ったでしょうが!!」
「き、聞いてましぇん」
「言った!! 何度も言った!! アンタが聞いてないだけ!! 任務が終わったらあれを丸ごと一本、吉方向いて食べるんだって私は何度も言ったわよ!!」

吉方を向いて丸ごと一本て、それは節分の太巻きの食べ方じゃないのかな。

羊羹もその食べ方で運気アップを図れるのだろうか。
軽く首を傾げつつ、こちらにやってくるふたりを見つめていると、アンコさんが名無子の首を右腕できつく締めあげながら僕にむかってニヤリと笑った。

「おー、サイ。さっきはありがと。アンタのおかげでアタシの羊羹を食い荒らした下手人、つかまえられたよ」
「それはよかったですね」

草地に座っていた僕はアンコさんを見上げ、ニコッと笑った。
その途端、アンコさんの腕に挟まれた名無子が赤茶の目を大きく見開き、僕の顔を凝視した。

「なになに、キミ、アンコ先輩に私の逃げた方向言っちゃったの?!」
「えぇ」
「ちょ、ちょ、ちょっと、もう、なんでぇ?!」

僕の返事が不満だったのか、名無子はジタバタ手足を動かした。
その姿はまるで首の後ろをつかまれたげっ歯類みたいだ。

「なんでって、僕はキミのことは全く知らないけれど、アンコさんとは何度か任務も一緒に出てるし、こういう場合、初対面のキミの頼みを聞くより、面識のあるアンコさんの頼みを優先させるのが当然だろう?」
「なにぃッ?! キミ、そんな話一言もいわなかったじゃない!!」
「言わなかったも何も僕はそのことを言おうとしたけどキミは聞かずに走りだしてたよ」



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