ハツカネズミに恋をする (ページ2/16)
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右を見て、左を向き、上を見上げたと思ったら、バッと背後を振りかえる。
なんだか非常にせわしない様子だ。
まるで何かに追われている小動物みたいで、それこそヒゲとかあったら鼻と一緒にヒクつかせていそうな感じだ。
と、僕の耳に、遠くのほうから誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。

「名無子ーー!!」

どこかで聞いたことある女性の声。
声のトーンから察するに、怒っていそうなものだった。
それを耳にした途端、目の前の女性があわわわと僕のほうへ目を向ける。
太陽の光を受けて光った瞳が真っ赤に見えて僕は少しドキッとした。
血みたいに毒々しいその赤眼が、薄気味悪いとかいうよりも、僕には純粋にキレイに感じられた。
女性が僕に早口に告げる。

「ねぇ、キミ、お願い! これからここに物凄い怖い女の人来るけど、その人に私がどっち行ったか聞かれたら逆方向を教えてね!!」
「あ、でも、僕は……」
「じゃあ、よろしく!!」

彼女は僕の言葉を最後まで聞いてくれやしなかった。
慌ただしく駆け行きながら僕に軽く手を振って、あっという間に右手の林へ姿を消した。
その直後、

「名無子ーー!!」

さっきよりもずっと近づいた怒声とともに目の前の林から猛烈な勢いで別の女性が姿を見せた。

あぁ、やっぱり。



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