over the dark (ページ12/15)
反論が、できなかった。
カカシの言うことのいちいちが、腹の立つほど正しくて、俺の情けない姿を明るみに浮かびあがらせていく。
そのとおりだ。
俺はすべてから逃げている。
次々と適当に、本気にもなれねぇ女と付き合って、名無子を忘れられない自分からも、名無子を支える自信のない自分からも、目をそむけようとしているんだ。
そんな俺が、カカシに何を言えるというんだろう。
俺にはただ黙ってカカシの言葉を聞くことしかできなかった。
カカシが言う。
「名無子はさ、今でもお前のこと、本当に愛してるよ。様子見に行くと、必ずアルバム見てるんだ。お前とうつってる写真見ながら、笑わなきゃって、いつも言う。シカマルが自分の笑った顔が好きだったから、ってな」
その一言に、心が飲みこまれた。
俺の目の前に、いくつもの名無子の笑顔が弾けて、最後に、
『私、シカマルと別れるね』
泣きながら笑ってた名無子の姿が浮かんで見えた。
もしかして、別れるときにアイツが無理して笑ってたのは、俺のため、なのか?
俺がアイツの笑顔が好きだからって、別れる時まで笑って見せたっていうのかよ?
胸の中にブワッと、今まで押さえこんでいた名無子という存在が溢れ出す。
アルバムだって、アイツが持って行ってた。
何度探しても見つけられなかったアルバム。
本当は俺、アイツの笑顔が見たくて何度も何度も探してたんだ。
アルバムになら、二人の笑ってる姿が腐るほど載ってるから。
でも、それをアイツが持って行ってた。
自分の振った男とうつってる写真なんていらないはずなのに。
部屋を出るときに自分の荷物と一緒に持ち出して、ずっと大事に見てたのか。
アイツは、今までずっと―――。
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