君ニ捧グ-3 (ページ10/10)
指先に触れる金属の感触。
ずっと忘れてた。
あの日、名無子がくれた、幸せを呼ぶという天使の羽のキーリング。
ポケットの中から、羽をかたどった飾りのついたキーリングが顔を出す。
俺はそれを見つめた。
俺に幸せになって欲しいと言った名無子。
いつもお前は俺のことをなんでも優先させて、自分の幸せなんか後回しにする。
俺のこと好きだったなら、マリアの話聞いてんのも本当はつらかったはずなのに。
それでも、ずっと聞いてくれた。
そうやって、俺の弱さを受け止めてくれた。
お前がそうしてくれなかったら、俺はもっと苦しんでいたんだろう。
俺の幸せを考えたせいで、名無子が受けた痛み。
俺が気づかぬ間に名無子に与えていた痛み。
それを感じて俺の胸の奥が疼いた。
ぎゅっと手の平のキーリングを握りしめる。
俺の脳裏に色鮮やかに、名無子の、アイツらしいあったかな笑顔が浮かぶ。
俺は机の上にフォトフレームを置いて、その横に自分の左手の薬指からはずしたシルバーリングをそっと並べた。
約束したのに守れなくって、ごめんな。
でも、そのかわり、俺はもう苦しい顔しねぇーから。
フォトフレームの砕けたガラスの隙間から、そんな俺を許すように写真の中でマリアが笑う。
マリアの声と笑顔に押され、潰し続けていた俺の気持ちが一気に名無子に向かっていく。
俺は臨海演習場のパンフレットを掴むと、赤丸に告げた。
「行って来る」
「わん!」
背中に赤丸の声を浴びながら、俺は部屋を飛び出した。
* * * * * * * * *
to be continued.
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