君ニ捧グ-3 (ページ8/10)
マリアへの思いから俺を解放させようっていうのかよ?
解放させて、それで……。
赤丸に、俺は静かにたずねた。
「……連れもどせっていうのかよ。名無子を」
その言葉に赤丸がわんっと吠えた。
俺は赤丸から目を逸らし、低い声で呟いた。
「そんなこと……」
できねぇーよ。
そう続けようとしたとき、開いた窓の隙間から、いきなり風が流れ込んできて、背後から俺の体を取り巻いた。
かぜ……。
生き物のような風の中で俺が思わず立ちすくんでいると、その風の中にあんなにうまく思い出せなくなっていたマリアの声が、確かな鮮明さと共に忽然と鳴り響いた。
『もう、いいよ、キバ』
マリア……?
驚いて窓の方を振り向く。
その目に映るのは、見慣れた窓とその向こうに広がるまっ青な空だけだ。
それでも俺は一瞬聞こえたマリアの声を心の中で必死に追いかけていた。
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