君ニ捧グ-3 (ページ1/10)
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名無子の部屋を逃げるように飛び出した。
何かに追われるように、俺は家に向かって走り出していた。

なんで俺、あんなことしちまったんだろう――。

ついさっきの名無子とのキスが俺の頭を支配する。
ただ触れただけの短いキス。
でも確かにその感触が俺の体に残っていて、それは心臓の動きを容赦なく加速させていく。
俺にとって名無子はいい友達。
俺はずっとそう思ってた。
俺の話をうんうん聞いてくれて、そんなアイツに俺はつい自分の本音を話しすぎて情けない顔をさらけだしちまう。
それでもアイツは優しく笑いかえしてくれるんだ。
いつもなら。
そう、いつもなら。
だけど、今日は違った。
俺は名無子に泣き出しそうな顔で見上げられた。
アイツのあんな顔を俺は今まで見たことなくて、俺の感情がひどく動揺した。
俺のこと好きだなんて言い出して。
俺の痛みを俺と同じ痛さで受け止めてたアイツの泣きそうな顔に、俺は胸ん中で今まで意識にのぼらなかった感情が浮かび上がっていくのが見えた。
まるで海の底から空気の泡が、海面めがけてのぼっていくように。
俺の中でわきあがっていくのが見えたんだ。

友達なんてウソだ。
俺は名無子に惹かれてる――。

それに気づいた瞬間、俺はアイツを泣かせたくないって思った。
悲しませたくないって思った。
でも、それ以上に名無子に触れたくて。
俺は衝動的にアイツにキスをした。
俺にはマリアがいるのに。
なのに俺は、自分の気持ちを止められずにキスをしたんだ。

『……ごめん』

その言葉以外に、俺に何が言えただろう。
マリアにとっても、名無子にとっても、俺の行為は背徳的すぎて。
こんな自分を、俺は謝ることしかできなかった。





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