リアル・ワールド
ラブレター1 (ページ1/6)
ガチャリと玄関の扉を開けると名無子が戸口に立っていた。
「サイ、この間言ってた本持ってきたよ」
僕を見て二コリと笑った彼女の胸には黄色いチェック柄の紙袋が両腕でしっかり抱えられていて、その中にはどうやら本が何冊か入っているらしい。
先日名無子との会話で出た彼女オススメの本たちを僕に貸すため持ってきてくれたようだ。
「ありがとう。重たかったろう? 言ってくれれば取りに行ったのに」
何の気なしに紙袋の取っ手をつかんで受け取ろうとすると名無子はあわててそれを制した。
「あ、ダメ」
「ダメって?」
首をかしげる僕に名無子が答える。
「この袋破れてるの」
名無子の言葉に良く見てみれば、たしかに袋には持ち手の横辺りから斜め下に向かって大きな亀裂が生じている。
「ほんとだ。どうしたの、これ?」
「来る途中、人にぶつかっちゃって。そのとき切れちゃったの。中の本も道に落としたから汚れてるかも。ごめんね」
申し訳なさそうな顔をして告げる名無子から今度は袋の底を支えるようにして受け取る。
「怪我はない?」
名無子がニコッと首を縦に振った。
「そう」
その姿に僕はホッと呟き、抱えた紙の袋を近くの卓に置いて中を覗きこんだ。
パッと見、三冊の本は特に汚れた形跡はない。
「大丈夫じゃないかな。本、綺麗そうだけど」
「ホント? だったらよかったぁ」
破れた袋の中から本を取り出す僕のそばに玄関で靴を脱いだ名無子がやってくる。
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