アル・ワールド
episode.10 (ページ1/4)

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僕は自分の部屋で、名無子のことを待ちながら絵を描いていた。
真っ白なキャンバスに小さな円をひとつ塗り込んでいく。
名無子の好きなガーベラと同じあの色で。
僕を真っ白な世界から救い出す、キレイなキレイなあのキイロ。

そろそろ来てもいい頃だ。

僕はキャンバスから玄関の方へと目を移した。
今日は名無子と一緒に出かける約束をした日なんだ。
僕の具合が良くなって、彼女は僕に言いだした。
「温泉に行かない?」って。
僕も温泉は大好きだから、すぐに賛成して、ぼくらは火の国の端っこに位置する秘湯に行くことにした。
それが今日なんだ。

それにしても、なんだって僕はこんなにそわそわしているんだろう。

我ながら呆れる。

バカみたいだ。

おかしなくらい浮足立つ自分を持て余して、もう一度キャンバスに目を戻した時、

「お前にとってあの女はなんだ?」

――ッ。

突然響いた男の声に、僕は息を詰めた。
見れば、窓際にいつの間に現れたのか根の仲間が立っている。

「ずいぶん仲がいいんだな。恋人か?」

その言葉はきっと名無子のことを言っているんだろうと思い当たる。
僕はその問いには答えず、尋ね返した。

「……任務ですか?」
「いや、違う」

仲間はあっさりと否定した。



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