アル・ワールド
ラブレター2 (ページ4/6)

 bookmark?


夕方、僕たちは手をつなぎ、夕日の見える丘公園に向かって歩いていた。
公園にほど近い分岐路まで来たところで、名無子が足を止め、僕の顔を見上げる。

「じゃあ、ここでね、サイ」
「うん」

握ったままなかなか離す決心のつかぬ互いの手を、それでもゆっくりと離して、名無子は右へ延びる道へ足を踏み出す。
その後ろ姿を僕はY字に別れる道の交差部に佇んで静かに見送った。
これから名無子は例の公園へ行き、手紙の差し出し人である男に会って僕とのことを正直に伝えてくるのだ。
僕は名無子が話を終え戻ってくるのを公園の近くに位置するこの三叉路で待つと約束した。
よくわからないけれど、できるだけ名無子と一緒にいたかった。
名無子と離れたくないと思った。
もしかしたらこれが嫉妬というものなのかもしれない。
手紙の彼にキミが笑いかけたらどうしようなんて、どこかで不安に思うから、僕はその不安を消したくてキミと一緒にいようとする。
そんな嫉妬とも不安ともつかぬ思いを胸に僕は空を見上げた。
夕日に赤く染まる空を幾筋もの雲がオレンジ色した光を浴びてゆっくりと流れゆく。
橙色や桃色がかる明るい雲も、陽の当らぬ部分では薄墨色した陰影を見せ、どことなくこれから訪れる夜気を感じさせた。
刻一刻と沈んでいく太陽に、まわりに広がる空の色が絵師の筆で水墨を掃き重ねたようにその色調の明度を落としていく。
徐々に闇の気配を増す空を眺めながら、僕の心は今か今かと名無子の戻りを待ちわびた。
そして、数羽の鳥が、巣へ帰ろうとしているのか、黒々とした影を空に描いて飛び去っていくのが見えたとき、

「サイー!」

先ほどその姿を飲み込んだ右側の道の奥からこちらに駆けてくる名無子の小さな姿が浮かび上がった。



(ページ4/6)
-62-
|
 back
select page/71

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -