リアル・ワールド
ラブレター1 (ページ4/6)
「いや、このイチヤって人、夕日の見える丘公園で待ってるって書いてるし、名無子と仲良くなりたいんだろう? 行かなくていいの?」
「ちょッ……」
僕の言葉に名無子が目を見張る。
「私にはサイがいるのに? サイは私がこの人に会いに行って仲良くなっても嫌じゃないの?」
名無子のムキな物言いに少し驚きながらも僕は思っていることを素直に口にした。
「……名無子が彼と仲良くしても僕はイヤじゃないけど」
「――」
名無子が声を飲みこみ、僕を見る。
その顔が妙に悲しそうで、僕は心の中で自問した。
何をそんなに悲しむんだろう?
名無子が僕の前で視線を床に落とした。
「わかった……」
小さな声で呟いた名無子が手紙を握りしめ玄関に向かう。
「名無子?」
「帰るね」
もう?
さっき来たばかりじゃないか。
僕は変な焦りを感じ、慌てて名無子の背中を追いかけた。
「今、飲み物淹れるよ。もう少しゆっくりしていったら?」
「ううん、いらない。今日は帰るよ」
名無子は振り向くこともせず玄関で忍靴を履き、ドアノブに手をかけた。
「じゃあ……夕方その人に会いに行ってくる」
カチャッと扉を開けて、名無子は静かに出ていった。
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