リアル・ワールド
ラブレター1 (ページ3/6)
「道でぶつかったとかいう人、男性? 名無子と一緒に本を拾ってくれなかった?」
「う、うん、男の子……謝りながら本拾ってくれた……」
「じゃあ、きっとその人が本を拾うのを利用してこのラブレターを紛れ込ませたんだ」
「そんな……」
言葉に詰まる名無子から便せんへと目を戻し、僕は手紙の先を読み進める。
『友達からでいいんで、俺と仲良くしてもらえないでしょうか?
俺、今日から毎日夕方に夕日が見える丘公園で待ってるんで、ぜひ来てください。
任務で行けない時もあるかもだけど行けるときは絶対に行くんでお願いします。
桃木 イチヤ』
僕は丁寧に書いたところで到底キレイとは言えぬ乱雑な文字を最後まで読み終えて、隣で黙りこむ名無子に目を向ける。
「このイチヤって人、名無子は知ってるの?」
呆然としていた名無子がハッと僕の顔を見て、懸命に考え出す。
「えっと……うーん……数班合同の任務で一緒になったのかな……? 申し訳ないけどよく覚えてないよ」
「なんだ、知らないの。今日ぶつかったときに顔は見なかった?」
「うん、顔までは見てない……」
ふぅーんと頷きながら僕は軽く曲げた人差指を唇にあて、もう一度手紙に視線を落とす。
「それにしてもホントひどい文だね」
僕の呟きには答えず、名無子は乱暴に手紙を折りたたむと封筒にねじ戻した。
その姿を眺め、僕は訊ねる。
「どうするの?」
「え? どうするって?」
びっくりした顔で名無子に逆に問い返されて、僕はちょっと困った。
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