リアル・ワールド
ラブレター1 (ページ2/6)
やっぱり泥などはついてはいないし、表紙が折れたり、ページが破れていたりということもない。
「うん。この二冊は大丈夫」
二冊を見終わり、最後の一冊に手を伸ばした僕は、ふと紙袋の中に本とは別の真っ白な封筒が一通入っていることに気づいた。
「コレ何かな?」
手に取り、名無子に見せる。
「なぁに、それ?」
名無子にも心当たりはないらしく、僕の隣で不思議そうに首をかしげた。
当て名も差し出し人の名も何も書かれてないまっさらな封筒だ。
それを僕から受け取り、名無子はその正体不明の手紙の端をピリピリと破りだす。
中にはこれもまた白い便せんが入っており、名無子は三つ折りにされたそれを引っ張り出してカサカサと音を立てて開いた。
名無子とふたり顔を寄せ合い便せんを見ると、そこには大きな汚い文字が、それでもきっと一生懸命きれいに書こうと努力したと思われる丁寧さで並んでいた。
『名無子さんへ
こんな手紙の渡し方をしてほんとスミマセン。
俺、イチヤって言います。
俺のことわかりますかね?
いや、きっと、わかんないッスよね……。
いいんす、そんな接点あったわけじゃないんで。
仕方ないッス。
ただ、俺は名無子さんのこと知っていて、あの――。
好きなんです、名無子さんのことが。』
手紙を途中まで読んだ名無子が口元を手で押さえ、真っ赤になった。
「な、何、これ……」
「ラブレターっていうやつなんじゃない?」
「ラ、ラブレターってッ……!!」
ガッと顔をあげ言葉を失う名無子に僕はいつもとなんら変わらぬ口調で問いかける。
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