アル・ワールド
マグカップ (ページ5/6)

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自分の手に握られたカップと、僕の大好きな名無子が両手で大事に持つカップ。
それらペアカップの間には、なんだか僕と名無子を繋げる目に見えない糸が架かっているように思えて、ひどくかけがえのない、大切なモノみたいに感じる。
そんなことを思いながら、カフェオレをもう一口飲もうとマグカップに口をつけると、名無子がベッドに腰掛けたまま、自分の前に立つ僕を見上げて、ふふっと笑った。
ん? て、目だけで問いかけると、名無子は僕に、

「だって、なんか……そのクマさんマグ、サイにすごく似合わナイんだもの」

すごく似合わナイって……。

名無子のずいぶんストレートなけなしっぷりにちょっとばかりあきれていると、名無子はさらに、

「でも、そのカップで飲むサイって、すっごくかわいい!」

楽しそうに、僕に向かって笑いかけた。
幼稚な柄の、幼稚なペアのマグカップ。
それらは僕と名無子の手の中で、そこからまるで互いを結ぶ光の糸をスルリと伸ばしていくようだ。
その糸を手繰り寄せるように、僕は名無子に言葉を紡ぐ。

「ねぇ、名無子、それって僕を褒めてるの?」
「うん、もちろん。褒め言葉」

明るく言い切る名無子の表情に、

似合わナイとか、かわいいとか。
ホントに変な褒め方だな。

僕は思わず、クスッと笑って、

「そう。ありがと」

緑地を歩くクマのマグカップに口をつけ、もう一口、静かにカフェオレを飲みこんだ。





end.
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